『価値づくり』の研究開発マネジメント 第345回
普通の組織をイノベーティブにする処方箋(192): KETICモデル-思考(134)
「発想のフレームワーク(73):思考の頻度を高める方法(47) 妄想のすすめ(17)」
(2024年12月9日)
今回も、引き続き「妄想を積極的に促す方法」について、考えてみたいと思います。
●妄想を積極的に促す方法(その26):遊びごころを持つ
先月(2024年11月)の日本経済新聞の「私の履歴書」というコーナーで、モンベルの創業者の辰野さんが1ヵ月にわたり連載されていました。その辰野さんの「私の履歴書」を読んで知ったのは、辰野さんは趣味を仕事とし、その仕事であり、趣味であるものを心の底から楽しんでいる、いや「楽しんでいる」という表現では弱すぎで、趣味=仕事を生き々々と生きてきたということです。
その話を友人としている中で、「遊ぶように仕事をする」という言葉がどちらからともなく出てきて、この考え方はいいなと感じました。なぜなら「遊ぶように仕事をする」ことは、社員の間でイノベーションを起こす大きな原動力になると感じたからです。
私は20代の頃、10年間弱ですがある某大手家電メーカーに勤務をしていました。その会社では世の中でも広く知られた創業者が崇拝されており、その創業者の言葉1つ1つが極めて重要に扱われていました(今でもそのようです)。その言葉の1つに、「仕事とは本来つらいもので、だからこそ給料をもらえる」という、ものがありました。違和感もありましたが、日々仕事において大小つらい事にも遭遇していた20代の当時の私は、まあそんなものだなと思っていました。
しかし、今ではこの考え方は、基本的に間違っていると感じています。これからの企業は、ますます社員のイノベーションを原動力に成長することが重要になっていきます。このイノベーションに関していうと、確かにつらい事に直面し七転八倒する中で、イノベーティブな解決策が出てくるということは、現実にはあると思います。そして、つらいことをなぎ倒して解決することに生きがいを感じるスーパーマンも少数ながらいるでしょう。しかし、大多数の人にとって、つらい思いは視野を狭くするというネガティブな効果(他にも、もちろんネガティブな効果があると思いますが)を生み出すものです。
イノベーションは、「(それまで結合されていなかったことの)新結合」であることは、多くの人達の間で認識されている基本的な考え方です。「仕事とは本来つらいもの」という考え方は、まさに「視野を狭くする」ゆえに、このイノベーション創出の仕組みに反するものです。組織におけるイノベーションのマネジメントは、少数のスーパーマンに向けてではなく多くの社員を対象に、また一度のみならず何度もイノベーションが起こることが期待されているのですから、イノベーション創出に向けて広く、普遍的な環境を作らなければなりません。
〇遊びごころは、妄想を促す
間違いなく、遊びごころは妄想を促します。なぜなら、まさに妄想は、思考の遊びであるからです。
オランダの思想家に、ヨハン・ホイジンガ―という人がいます。ホイジンガ―は、「ホモ・ルーデンス(遊ぶ人間)」という言葉を作り、人類の文化は人間の遊びの中で生まれたもので、文化の形成に遊びが大きく貢献をしているという考え方を世に広めました。「遊びは単なる娯楽ではなく、人間の創造性」の源泉であるという主張です。ホモ・ルーデンス(遊ぶ人間)と並ぶ概念に、「ホモ・サピエンス(知性人)」や「ホモ・ファーベル(工作人)」があります。いずれも重要な概念と思いますが、企業におけるマネジメントにおいては、これら3つの内、「ホモ・ルーデンス」の追求が徹底的に欠けています。
次回もこの議論を続けていきたいと思います。
(浪江一公)