『価値づくり』の研究開発マネジメント 第335回
普通の組織をイノベーティブにする処方箋(182): KETICモデル-思考(124)
「発想のフレームワーク(67):思考の頻度を高める方法(37) 妄想のすすめ(7)」
(2024年7月16日)
今回も、引き続き妄想を積極的に促す方法の議論を続けたいと思います。
●妄想を積極的に促す方法(その14):妄想を行動に移す
妄想したことを一部でも良いので、行動に移してみる。その効果には、以下があるように思えます。
〇行動することで、新たな刺激を受ける
-新な想像もしていなかった世界を経験できる
妄想なので、そこにもとづき行動するとその多くをそれを否定する現実が見えたり、拒絶にあうことになります。しかし、その妄想の100%が否定されることもまたありません。1%ぐらいは潜在的に存在していたもの、受け入れられるものであることも多いのではないでしょうか。まさにその1%の存在を知ることは、大変貴重です。
-他人からの新な気づきが得られる
妄想をぶつける対象が人間(他人)である場合、その妄想によりそれまで存在しなかったような仮説ですから、他人にも刺激があります。その刺激を受けて他人が反応してくれる訳で、それらはまったく想定していなかったものである可能性があります。それら未知の反応も知ることも、大変貴重です。
〇単に行動するという事実だけからも、前向きなエネルギーが生まれる
心理学の研究で、行動に移すだけで気持ちが前向きになるというものがあります。面倒だなと思っても、実際に行動に移すと、その面倒を忘れ前向きに取り組む姿勢にかわり、またその結果小さくてもなんらか得るものや前進(たとえば問題の解決、またそこまで行かずとも何か新しいことがわかるなど)がある。皆さんにも、そのような経験があるのではないでしょうか。
●妄想を積極的に促す方法(その15):小さな失敗・徒労を数多く重ねることを目的・楽しみとする
一方で、頭のなかで妄想するだけではたいした時間やエネルギーは不要ですが、行動に移すことになると、一人一人の人間にはもともと限定されている時間やエネルギーを費やすことになります。そして、多くの場合妄想を行動に移しても、失敗や徒労に終わることになります。それが重なると、妄想を行動に移すモチベーションは雲消霧散してしまいます。
そこで、そもそもイノベーションは多くの失敗や徒労を重ね、その結果やっと生まれるものであるという事実を踏まえ、失敗や徒労を重ねることを目的として、楽しむという姿勢を持つことが大事ではないかと思います。自分で失敗・徒労リストを作り、それが預金通帳の預金額が増えていくのを楽しみにするのと同様に、増えていくことを楽しむというイメージです。トーマス・エジソンの言葉に、「失敗ではない。うまくいかない1万通りの方法を発見したのだ」というものがあります。まさにエジソンは、うまくいかない1万通りの方法を発見することを「楽しんだ」ということと思います。
エジソンのように、失敗や徒労を重ねることを楽しむなど、心理的に可能なのでしょうか。私は可能と思います。
失敗や徒労そのものではありませんが、たとえば旅をするといろいろなトラブルに直面します。その場では、大変な思いをする訳ですが、後から考えてみるとそれは良い経験や思い出として心の中に残るということがあります。私の例で恐縮ですが、旅行中にスリに遭う、自転車旅行中に溝に落ちけがをする、人に騙されるなど(いずれも海外での旅行中の経験です)。今思うと良い思い出で、指折り数えたり、他人に自慢(笑)したりするものです。
とは言いながらも、大きな失敗や挫折では、モチベーションを大きく損なうことは多いと思います。妄想を行動に移す時には、失敗や徒労はできるだけ小さなものとするような工夫は、同時に必要です。
(浪江一公)