『価値づくり』の研究開発マネジメント 第327回
普通の組織をイノベーティブにする処方箋(174): KETICモデル-思考(116)
「発想のフレームワーク(59):思考の頻度を高める方法(29) 思考の扉を増やす(7)」
(2024年3月25日)
前回までは、イノベーションのための全く新しい視点での体験や知識を得るために、自分が人間以外の生物になったと仮定して、周囲を眺め、また考えるということについて取り上げてきました。今回は、同じ目的のために、さらに進んで、自分が無生物の物になったと仮定して、周囲を眺め、また考えるについて議論してみたいと思います。
●無生物の物が擬人化された例
生物の擬人化の例は、沢山あります。動物の例では、ディズニーに出てくるキャラクターのドナルドダックやミッキーマウス、また植物の例では、シェークスピアの真夏の世の夢には、タイタニアという植物を擬人化したキャラクターが登場します。
しかし、さらに一歩進めて無生物の物を擬人化した例もあります。たとえば機関車トーマスでは機関車が、またディズニー映画の美女と野獣には、キャンドルや時計が擬人化されて登場します。また、日本のアニメのガールズ&パンツァーでは、第二次世界大戦の戦車が擬人化されています。
●自分が物になったと考えることで、何ができるか?
これら効果を使った映画の脚本家や小説やアニメの作家は何を意図して、このような生物や物の擬人化をしているのでしょうか?そこでは、観客や読者のそれら登場物!への感情移入を狙っていています。そして、観客や読者がそれらの物に感情移入をして、物になって考えることを意図しています。
そのような無生物への感情移入を、映画やアニメを見ていたり、小説を読んでいる間だけではなく、その他の時間にも行ったらどうでしょう。そのような無生物の感情に基づき、周囲を観察し、行動することで、もちろんまったく完全ではありませんし、仮想や妄想の世界ではありますが、人間が体験できないことを体感できるということがあります。
●自分が無生物の物になったと考えることで、何が体験できるか?
それでは、自分が無生物の物になったと考えることで、具体的には何が体験できるのでしょうか?
〇人間の自分が体験できない周囲の環境や環境との相互作用を体験できる
対象の物の特徴を持った自分が見る世界を、体験することができます。そこには2つの世界があります。一つは、今実際に目の前存在する環境が、物になった自分にはどのように見える、どう感じるかです。もう一つの世界は、存在しない世界を疑似体験できるということです。
前者の例では、たとえば上であげた戦車になったとすると、戦車である自分があちこち動き回ることで、キャタピラで階段をゴリゴリすり潰してしまうとか、砲塔をぐるぐる回して建物をバリバリ壊してしまうなどを、仮想ではありますがありありとまさに体感で想像することができます。
後者の例では、自分が戦車になったと考えてみれば、過去に映画やテレビで見た実際の戦場の映像や知識の助けを借りながらも、硝煙や轟音に満たされている戦場の環境をありありと想像・体感することができます。
〇無生物の物の内的感覚を体験できる
加えて、自分の内的な感覚を体感で感じることができます。無生物としての自分は、大きいのか、小さいのか、重いのか、軽いのか、ぶよぶよしているのか、固いのか、俊敏なのか、鈍重なのかといった感覚です。
●スパークの頻度が多いに高まる
このように、人間では体験できないことを、想像、さらには妄想ではあっても体感することで、自分の経験や知識を多いに拡大することがで、その結果イノベーションを起こすスパーク(化学変化)の頻度を大きく拡大することができます。
(浪江一公)