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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第310回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(157): KETICモデル-思考(99)
「発想のフレームワーク(42):思考の頻度を高める方法(12) 視覚で思考する(3)」

(2023年7月18日)

 

セミナー情報

 

今回も前回に引き続き、視覚を活用して創造性を高め、イノベーションを起こす能力を強化する方法について、考えてみたいと思います。

前回は、「●視覚情報に数多く触れる機会を持つ」を議論しました。その中では、「〇実際の現場に触れる」、「〇抽象化された絵・図・パターンに触れる」、そして「〇視覚的経験を惹起するような対象に触れる」という点を取り上げました。その他に、どのような方法があるのでしょうか?

●イメージとしてポイントになる映像を切り取り、深く頭に焼き付ける
単純に、前回で議論した「●視覚情報に数多く触れる機会を持つ」だけでは不十分です。その機会の中で重要なポイントになる映像を切り取り、深く記憶に焼き付けることで、その後のイノベーション創出時に、記憶の蔵にしまわれた映像体験を引き出しやすくしておく必要があります。その方法としては、以下があるように思えます。

〇意思を持って写真を撮る
今の時代ほとんどの人が、カメラ機能がついたスマホを肌身離さず持ち歩いています。カメラで、その映像を撮影しましょう。ただし、考えずにのべつ撮影するのではなく、対象物をファインダー(現実にはスマホの画面)を通して十分対象を吟味し、観察するというひと手間を掛けることで、対象物の映像をより深く記憶に焼き付けることができるようになります。

〇対象物を自分で描き転写する
進化論を提唱したダーウィンは、ビーグル号でのガラパゴス諸島訪問時に見つけた、様々な動物を自分の手で描きました。その経験は、その後の「種の起源」執筆に多いに役だったと言われています。もちろん、ガラパゴス諸島訪問時に発見した情報自体が極めて重要であったわけですが、絵を描く時の詳細にわたる観察や思考で得られた記憶の中に蓄積された映像レベルの精度の高い情報が多いに役に立ったのではないでしょうか。

したがって、写真を撮るだけでなく、さらに一歩進めて、対象物を自分の頭と手で転写する、すなわちペンや筆で絵や図を描くということがあります。私の子供時代には子供向けのお絵描き教室があちこちにあり、私もお絵描き教室に通っていた記憶があります。その経験により、知らず知らずの内に対象物を良く観察するという習慣が身についたような気がします。

●対象イメージを鑑賞し思考を発展させる
他人が作成したものや収集したもの、例えば芸術品を「鑑賞」することは、それを通して得られた映像情報を強く記憶に刻み込むという面で、多いにイノベーション創出に蓄積に貢献するように思えます。「鑑賞」するのですから、そこには深い思考が伴う必要があります。そのためには、以下が重要になると思います。
〇思考をするための時間をとる
「鑑賞」するのですから、一つ一つの鑑賞に時間が必要です。単に対象イメージをスキミングするだけでは不十分です。
〇自分の感情や思いと対話する
その対象イメージを見ることから湧き出る感情や思い・思い出を自分自身で確認、反芻し、その感情や思いを生み出している部分について、過去に記憶にまでさかのぼって深く考えてみる。
〇対象物の背景情報を持つ
上のような思考をするには、背景情報、特に作成者の情報が多いに役立ちます。鑑賞する前に自分でも、その対象イメージに関わる背景情報を集めておくことは、意義のあることでしょう。

次回もこの議論を続けていきます。

(浪江一公)