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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第279回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(126): KETICモデル-思考(68)
「発想のフレームワーク(11):自分の誤った思考や経験に基づいていないか?」

(2022年4月25日)

 

セミナー情報

 

今回も前回、前々回と同様、「切り取った知識の重要部分を発想するフレームワークを使って、イノベーションを発想する」にもとづき、日々の活動の中でどうイノベーションを創出するかについて、議論します。今回は、今考えている前提が間違っている場合として、前回提示した4つの場合の内「自分の誤った思考や経験に基づいていないか?」を議論します。

●1B1:「自分」の誤った思考や経験に基づいていないか?

人間は、思考においては、必ず過去の自分の思考の結果や経験に基づき行います。そもそも、それらがなければ、思考はできません。どんなに自分の頭脳の処理能力が高くても、そこへのインプットがなければ、アウトプットを出しようがないからです。

しかしここでの問題は、そのインプットが正しいかです。インプットには、今直近で収集した情報と過去からの蓄積の2つから構成されます。仮に直近の収集した情報が正しくても、過去からの蓄積の部分が誤っているのでは、間違ったアウトプットが出力されてしまいます。

過去からの蓄積に関しては、当然過去生きてきた数十年のみという時間的な制約、またその間に自分が身を置くことができた場所は限られているのですから、様々な面における自分自身の認識が間違っている可能性はかなり高いと言えます。最近NHKのあるラジオ番組を聞いていて、その中で岩波ホールの支配人の高野律子さんが、「海外の映画を見ると、外国の人もまったく日本人と同じ思考をしているということと、全く異なる思考をしていることの2つがわかる」という趣旨の話をしていました。後者に関しては、海外というその場に身を置かなければ、知ることのできないことです。

このように、20世紀の後半から21世紀の前半という時に、日本という場に生活している我々にとって、全て正しい思考や経験をすることは土台不可能です。しかし、そのような限られた環境でもできる限り正しい経験や思考をする努力をすれば、そのような努力をしない場合に比べて、何倍もの正しい思考、経験をすることはできます。

●時間的な経験・思考の制約への対処

残念ながらタイムマシンでもない限り、過去を直接に経験することはありません。しかし、古今東西の数多くの研究者や著述家によるものを含め、過去に関する情報は沢山ありますます。また現在にも過去の活動の痕跡を残す歴史的な事物は数多く存在しています。それらから、過去について学ぶことは可能です。イギリスの著名な歴史家であるトインビーは、「歴史の教訓は未来に関してなにものかをわれわれに教えるのである」、(A.J.トインビー著、「歴史の教訓」、岩波書店、松本重治訳)と述べています。

●場所的な経験・思考の制約への対処

また我々は生まれ育った土地、また生活することのできた土地、また身を置いてきた場には、当然限度があります。一人の人生における数十年の間で経験できる場所また場は多くはありません。しかしそれでも、より多くの場を経験する活動をすることで、その経験は何倍にも拡大をすることができます。

それには2つの方向があります。一つは、文字通り様々な場を直接的に経験する機会を数多く持つことです。もう一つは、多様なバックグラウンドを持つ人達との接触を持ち、間接的に様々な場を経験することです。

(浪江一公)