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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第270回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(117): KETICモデル-思考(59)
「発想のフレームワーク(2)」

(2021年12月13日)

 

セミナー情報

 

前回から、「思考を構成する2つの要素」のうちの「思い付く」(第212回参照)、そしてさらにその「思い付く」ための2つの要素の「知識や経験を整理するフレームワーク」と「発想のフレームワーク」(第213回)の中の後者の議論をしています。今回もそれを続けたいと思います。

前回のメルマガでは、「発想のフレームワーク」を使ってイノベーティブなアイデアを発想するには2つのステップが必要であると述べました。今回その1つ目のステップである「整理するフレームワークで整理・構造化した知識の中で焦点を当てる重要部分を切り取る」を議論します。

●「整理するフレームワーク」で整理・構造化した知識の中で焦点を当てる重要部分を切り取る

〇重要部分を切り取るとは

ハンガリー人のアルベルト・セント・ジェルジは、果物には、損傷を受けると黒く変色するもの(バナナなど)と、変色しないもの(オレンジなど)の2種類のあることに気づきました。そこで、彼はなぜ変色する果物と、しない果物があるのかに疑問を持ち、その結果、変色を妨げる化学物質としてビタミンCを発見しました。ビタミンCは、果物に含まれるポリフェノールが酸化によっておこる変色を防止する効果を持ちます。

彼は、数多くの果物の観察から収集した情報やデータを、形状、におい、大きさ、色など様々な「整理するフレームワーク」を使って頭の中で整理していたはずです。しかし、彼はその整理された知識の中から、色の変化に関心を持ちました。ここで重要なのが、彼はなぜ色の変化に関心を持ったかです。

その点については、彼はそもそも子供のころから色彩に関心を持っていたからということを言っています。しかし、私はそれだけではなく、同時に、意味あるもの、すなわち前回の「イノベーションの再確認」でも議論したように、新しい価値を生み出す化学物質を見つけたいと強く考えていたからだと思います。つまり、果物の変色を抑えることができれば、果物が長持ちしますし、高く売れるという価値を認識していたからではないでしょうか。

〇イノベーションを生み出す上での「価値」の認識の重要性

ここで言えることが、イノベーティブなアイデアを創出する上で重要なのが、イノベーション創出の目的を強く認識することです。イノベーション創出の目的は前回議論したように、「価値」を創出することです。したがって、イノベーションを起こすには、常に生み出す可能性のある「価値」を強く認識している必要があります。

それでは「価値」を強く認識するにはどうしたら良いのでしょうか。それは顧客や社会に強い関心を持ち、そこでのPain(問題)やGain(あったら良いもの)の可能性を常に考えるように、自分達の意識を変えていくということです。

そのような活動をしている企業に、製薬会社のエーザイがあります。同社は全ての社員を対象に、自分の時間の1%を患者やその家族との接触に当てるということを、ルール化しています。また研究所では、若くしてがんに罹患したプロの格闘家招き、そこで皆で話を聞くなどの活動も行っています。

そこから得られるのは、患者やその家族への強い共感です。どのようなことで、どの程度困っているのかを、暗黙知の知識として実体験を通して五感で獲得することを促す仕組みです。このような活動から、ある研究者には「副作用を少なくする薬の投与法を考えないと。われわれがやり切れていないことがまだまだある」という認識が生まれたというような事例が報告されています。(「エーザイ ESGは慈善でなく実利」、日経ビジネス2020年11月2日号)

(浪江一公)