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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第261回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(108): KETICモデル-思考(50)
「知識・経験を位置で整理する(5)」

(2021年8月2日)

 

セミナー情報

 

前回まで4度にわたり、KETICモデルの思考の中の「位置(関係)で整理する」を議論しました。今回も引き続き、このような思考でどうイノベーションを実現するかを考えたいと思います。

●空間的位置関係(アナロジー含む)のもう一方の特徴を活用する

空間的位置関係(アナロジー含む)において対局に位置する同士は、対立もしくはもう一方を忌避する傾向が強くあるように思えます。このような従来から存在する対立・忌避の意識を払拭して、逆に対局に位置する部分の特徴を活用することによって、イノベーションを実現することができると思います。

いくつかの例を以下にあげます。

〇内外の例

日本語には外人という言葉があり、日本に来る外国人はこの外人という言葉から疎外感を感じるらしいです。一般的にも内に位置する人たちにとって、外は強烈にネガティブなものと捉えられがちで、江戸時代の鎖国などはまさに日本人のそのようなネガティブな特徴が背景にあると思います。

一方で、まさに明治になり一転して欧米という「外」から積極的に学ぶことで、既に「内」にあった勤勉性や細部へのこだわりなどと欧米の先進技術や制度の新結合で、日本では弱小国の日本が日露戦争で巨大な軍事国家のロシアに勝ったり、産業や軍事面での強化により国力がおおいに高まったこと、また限られた分野ではありますが医学などの分野での国際的な研究がなされたなども含め、大小様々なイノベーションが起こりました。

〇南北の例

南北というと、単に空間的位置関係だけではなく、「南北」問題などの言葉にあるように、先進国と途上国を意味することとしても使われます。

上の内外の例では、進んだ先進国から遅れた日本が学びイノベーションを起こした例ですが、逆のケースもイノベーションにつながることがあります。リバースイノベーションという言葉があります。この言葉は、途上国と認識されている国から先進国が学び、そこからイノベーションを起こすことを言います。例えば、インドは人口当たりの医者の数が少ないために、特に地方などでは医者に掛かりたい患者は簡単に医者には見てもらえません。そこで発達したのが、スマホなどを使っての遠隔医療です。このような途上国の活動から得られた経験、知見、仕組み、技術は先進国でも同様に価値があることも少なからず存在します。

〇遠近の例

イノベーションの研究で、近傍ではイノベーションは起こりにくいと言われています。なぜなら、有名なイノベーションの研究者であるシュンペーターの言う「新結合」は、近傍では「新結合」の原料となる知識や経験が限定されていて、既に長い歴史の中ですでに起こるべき新結合は発生済の可能性が大きいからです。一方で、遠くに行けば行くほど、未知の原料を含めて、その原料は加速度的に増え、それゆえ「新結合」はいまだ起こっていない可能性がおおいに高まるからです。

しかし、遠くにあるものは、未知ゆえ、また既知であっても関心の対象外であったため、自分の適切な反応の準備ができておらず、大小様々な損害をきたす可能性もあるので、人間は基本的に忌避したり敵対したりするものです。

「遠」にあるものと「近」にあるものを積極的に組み合わせることで、イノベーションの可能性が高まります。

(浪江一公)