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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第254回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(101): KETICモデル-思考(43)
「知識・経験を関係性で整理する(31)-類似(2)」

(2021年4月26日)

 

セミナー情報

 

現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を議論しています(全体像は昨年の2020年1月27日第224回のメルマガをご参照ください)。今回は前回に引き続き、「類似」の関係について考えてみたいと思います。

●島精機の島氏の例からの2つの示唆

前回の例にあげた島精機の島正博氏の2つのアナロジーによるイノベーション発想は、実はそれぞれ全く逆の方向から発想されたものです。印刷機の色の三原色を利用した例は、コンピューターを利用して複雑な柄出しの方法を考えなければならないと「悶々」としていた時に、その解決策として思い付いたものです。すなわち『課題』が先ありきの例です。一方で、手袋の一体編みからセーターの一体編み機を思いついたのは、一体編み機で作られた手袋を見て、それがセーターと類似していたため、セーターの一体編み機を思い付くという、『解決策』が先にあったものです。

ここから、両者の「類似性」からイノベーションを発想する方法には、『課題』先にありきの場合と『解決策』先にありき場合の2つの方向性があることになります。それぞれ議論をしていきたいと思います。

●『課題』先にありきのイノベーションの発想

まず一つ目の『課題』先にありきのイノベーションの発想ですが、今認識している課題の解決法を、類似の課題が解決された事例を世の中に広く求めるというものです。以下の3つのステップで考えるのが良いと思います。

〇課題を明確にする
最初にすべきことは、自分が直面している課題を明確にすることです。ここで課題は、現状で直面している問題(Pain)と実現できればいいもの(Gain)の2つを意味しています。Painの例では、漠然と不安に思っているようなことがあれば、またGainの例では「もっと」と思っているのであれば、「何がどういう状態になっていたらよいか」を明らかにすることです。

〇課題を強く認識する
次にその課題を強く認識することです。上の島精機の色の三原色に着想を得た例では、島氏が「悶々」と悩んでいたことが、イノベーションにつながりました。課題を強く認識するというのは、心の作用ですので、なかなか直接的に自分でそうしようと思ってもできないものです。そのために、「何かどのような状態になっていたらよいか」に思いを巡らせ、そのような状況をアリアリと想像し、それを反芻する場に常に身を置くということを行うことではないかと思います。

〇問題の解決策を広く世の中に求める
課題を明確にし、それを強く認識すると、どうしてもそれの解決策を深く考えるという方向に行ってしまいがちです。しかし、もちろんそれも大事ですが、一見関係のない分野を含め世の中広く見渡すという活動を、日頃から習慣付けるということが求められるように思えます。

まず人間関係を多様にすることがあります。社内においても、通常ではあまり付き合いのないような人とも接点を持つ。社外においては、多数の顧客や仕入れ先などの関係先とのコミュニケーションを増やす。また仕事以外でも多様なバックグラウンドや特徴を持つ人とも広く付き合う。などがあると思います。

(浪江一公)