『価値づくり』の研究開発マネジメント 第250回
普通の組織をイノベーティブにする処方箋(97): KETICモデル-思考(39)
「知識・経験を関係性で整理する(27)-対立」
(2021年3月1日)
現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を議論しています(全体像は昨年の2020年1月27日第224回のメルマガをご参照ください)。実は、2020年1月27日付のメルマガ(第224回)の中のリストの中にはなかったのですが、あらたに関係性の中には「対立」があることに気づきましたので、今回は「対立」について考えてみたいと思います。
●「対立」とは何か?
まず対立とはなにかですが、辞書を見てみると「二つのものが反対の立場に立つこと。また、二つのものが互いに譲らないで張り合うこと」(Goo辞書)などがあります。
そこで私は「対立」を以下のように定義することとしました。
何かを巡って、2つのものが異なる立場をとる。さらには、異なる立場をとる相手にこちらの立場をとるように圧力をかける。
●意思をもたないものも「対立」するか?
ここで一つの疑問が湧きました。この「対立」の定義での主語は、その定義の中に「立場」とあるので、人間や組織また動物(餌を巡って動物同士が対立するなどの例がありますので)といった意思を持った生物だけなのかということです。しかし、例えば部品同士がある空間を巡り互いに対立する(干渉する)などということもありますので、必ずしも対立の関係にあるのは生物だけではなく、無生物や無形の概念などにも当てはまると考えることができます。
●「止揚」がイノベーションを生み出す
それではこの対立の関係が、どうイノベーションに関係してくるかですが、まさに対立に対しての解決策として、哲学者のヘーゲルが考えた「止揚」があり、それがイノベーションをもたらすと考えることができます。止揚とは、相対立するものが、その矛盾が調整され、より高い次元で解決が図られることを意味します。
●対立点の本質を探り、両者の本質を解決するお互いが合意できる策を考える
それでは対立・矛盾がどう調整されるかですが、対立はえてして表面的なレベルで生まれていることが多く、両者にその対立が生まれる奥底に存在する本質的な理由を考え、それを解決することが重要ではないかと思います。
例えば、日本を含め多くの国同士が、領土の帰属問題で対立しています。しかしその対立の本質的な理由は、人間(この場合国民)の「自分のものと考えるものが、他人に理不尽に奪い取られていると考えることで起こる強烈な拒否」という基本的な心理であるように思えます。(私の経験からも、人間にはこのような心理により過度な対立が起きやすいと感じています。)
そうであれば、相手の主張の根拠を心理レベルで理解し、例えば金銭的に解決するなどということもあるように思えます。つまり、領土を手放す側は金、プライドそして相手が自分達の気持ちを理解したとの納得を得て、また一方の領土を獲得する側は、領土に加え同じように相手が自分達の気持ちを理解したとの納得を得て、両者が満足し、加えて平和がもたらされるということがあるように思えます。
余談ですが、その意味から、金(かね)は人類が生み出した最高のイノベーションと言えると思います。
(浪江一公)