『価値づくり』の研究開発マネジメント 第245回
普通の組織をイノベーティブにする処方箋(92): KETICモデル-思考(34)
「知識・経験を関係性で整理する(22)‐「影響を与える」関係」
(2020年12月7日)
現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を議論しています。今回は、第224回(2020年1月27日)のメルマガの「関係性の種類」の中の、「影響を与える」について考えてみたいと思います。
●「影響を与える」とは
第224回のメルマガの中で、「影響を与える」に関して、以下のような説明をしました。「原因と結果のようにある要素が他の要素を生み出すというまでの強い関係ではなく、前者が後者になんらかの影響を当える関係」
「影響を与える」関係とは、原因と結果のように「決定論」的(deterministic)の関係ではなく、対象の「一部」に関して、未知の要因を含む「他の要因にも依存している」なんらかの影響を与えるような状況を、想定しています。
決定論とは、「あらゆる出来事は、その出来事に先行する出来事のみによって決定している、とする立場。」(ウィキペディア)とあるように、ある事象(A)が「必ず」ある事象(B)をもたらすというような関係です。
ですので「影響を与える」は、決定論的に明確に原因と結果がわかっているものではないが、AはBに影響を与えるというレベルのものです。
●なぜ「影響を与える」という関係性が重要か
なぜ「影響を与える」という関係性が重要かというと、そもそも世の中の神羅万象すべてを決定論的に解明することは、現実には絶対的に不可能であるということがあります。分かっているのは神様だけです。しかし、その一方で、全ての原因と結果の関係、すなわちある結果を生み出すメカニズムがわかっていなくても、「影響を与える」関係がわかっていれば、イノベーションを含む世の中に利益をもたらす発見となるからです。もちろん原因と結果が明確に関連づけられている状況は理想ではありますし、まさに科学は重要な分野に対象を絞ってそこを追求しているわけです。
ある事象(A)が、確率論的に「かなりの確率」もしくは「ある確率」である事象(B)をもたらすということがわかっていれば、からならずしもいつもその結果(B)がもたらさなくても、Bが必要な場合、Aを用意するということが可能となります。この場合AとBは決定論的に原因と結果ではなく、「AはBに影響を与えている」と言うのがより正しい表現です。
●「影響を与える」が「原因と結果」に進化していく
もちろん「影響を与える」関係が観察されれば、より明確なメカニズムである「原因と結果」を探るモチベーションが働きます。むしろ「原因と結果」に先行して「影響を与える」が観察されるわけですので、「影響を与える」関係性を見つけることは、その意味でも大変重要と言えます。
(浪江一公)