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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第238回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(85): KETICモデル-思考(27)
「知識・経験を関係性で整理する(15)‐外発的動機付けによる内発的動機付けの誘引(7)」

(2020年8月31日)

 

セミナー情報

 

これまでずっと、エドワード・デシの外発的動機付けから内発的動機付けを誘引する4段階理論を、議論してきています。過去2回では、その中で第3段階を実現する活動の2つ目の「(その2) 有能感獲得に向けて積極的に活動する」について、議論しました。今回も引き続き、同テーマを考えてみたいと思います。

●「新事業創出チームメンバー社内公募に手をあげるかどうか」の判断を想定して考えてみる

今ここでひとつの想定として、あなたの会社で新規事業創出チームメンバーの公募がされている状況を仮定しましょう。あなたは今企業の研究所に籍をおいていますが、担当分野の研究に関心をもってはいるものの、新規事業創出にも関心があります。しかし、新規事業創出の経験が全くないため、応募するかどうか躊躇しています。そのため、以下のプロセスにしたがって、「新事業創出チームに手をあげるかどうか」の判断をすることとしました。

1. GainとPainを網羅的にリスト化する
2. Gainの姿を明確に描き、得られるGainの大きさと得られる可能性を想定する
3. Painを幅広に想定し、そのインパクトと起こる可能性を評価する
4. Painのインパクトや起こる可能性を低減する方法を考える
5. GainとPainとを天秤にかけ最終的に取り組むかどうかの意思決定する

以下に順番に議論したいと思います。

●1. GainとPainを網羅的にリスト化する
(Gain)
まずGainですが、Gainは大きく分けて、2つの分野でのGainが考えられます。その選択を直接実行することから得られるものと、その選択をすることによって得られる現段階では未知な新な機会の広がりです。

前者に関してですが、新規事業への取り組みであれば、経営全体に関わる知識やマーケティングの知識など、これまで自分が知らなかったことが学べるなどのGainがあります。既に自分自身でGainがあるからこそ、「新事業創出チームメンバー社内公募に手をあげるかどうか」に迷っているわけですが、ここで重要なことが、できるだけ網羅的に広くGainを考えてみるということです。

あなたは、従来から新規事業への取り組みへの関心はあったのでしょうが、ここで今回のようなことをきっかけとしてGainを広く考えようとしてみれば、これまで自分の関心のみならず、追加的なGainとして気づくということは多いものです。むしろ、当初考えていたGainより新らたに思い付いたGainの方が大きいなどということも、あるかもしれません。

その昔ソニーの井深大さんは、歩きながら音楽を聴くというウォークマンのコンセプトを考えつきました。それまで、歩きながら音楽を聴くという習慣はありませんでした。しかし、井深さんは、もう少し広く考えてみると、歩きながらは音楽を聴くだけではないな、他にもできることがあるな。さまざまな機器でそのような活動を実現することができると、思いついたのではないでしょうか。もちろん歩きながら音楽を聴くという価値(Gain)は極めて大きいのですが、それ以外にも大きな機会(追加的なその他のGain)に結び付くと、思考を広げていたのではないかと思います。

後者(「その選択をすることによって得られる現段階では未知な新な機会の広がり」)に関して、「塞翁が馬」という故事成語があります。意味するところは、「幸せも不幸も人間の期待した通りにはならず、何が禍となり何が福となるか分からない」(weblio辞書)です。しかし、「塞翁が馬」は、むしろ一見不幸に見えることでも、幸福につながる面を意味するものとして理解されることが多いように思えます。人生の多くの局面で、面倒だな、困ったなという状況で仕方なく取り組んだことが、後に自分にとって大変大きな意味のある展開になるということは多いものです。私自身もそのような体験をしています。

もちろん現段階では未知のため、具体的なGainの項目はリストに挙げることはできないのですが、「複数の新な現状では未知の機会に結び付く」はGainのリストに入れておくことをお勧めします。

次回も引き続きこの議論をします。

(浪江一公)