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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第236回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(83): KETICモデル-思考(25)
「知識・経験を関係性で整理する(13)‐外発的動機付けによる内発的動機付けの誘引(5)」

(2020年7月27日)

 

セミナー情報

 

前回エドワード・デシの4段階理論における第3段階を実現する活動として、「(その1)有能感への貢献:目的達成が自分自身の成長につながることを理解する」、について議論をしました。今回は2つ目の「(その2) 有能感獲得に向けて積極的に活動する」について考えてみたいと思います。

●(その2) 有能感獲得に向けて積極的に活動する
有能感を直接的に自分自身が高めることができれば良いのですが、現実には難しいものです。心理学の言葉に「インポスター症候群」があります。これは、優秀な人であっても「自分の成功や今ある地位は、自分の本当の実力ではなく、外的な理由で周囲が過大評価している」と思ってしまう人間が本来持っている傾向を言います。世界中の多くの優秀なリーダーの間にもこのような考えが蔓延しているという事実は、驚きではありますが、このような個人が持つ無能感は人間の基本的な傾向でもあるという研究結果には納得感があります。

それでは、難しいとはいいながら、この個人が持つ無能感を克服し、有能感を高めるにはどのような方法があるのでしょうか。このインポスター症候群への対処法として、自分自身にそのような感情があることを素直に受け止め、自分が無能であるというのは本当かを自問する余裕を持つというものがありますが、私自身はもう少し積極的な対応策があるのではないかと思います。

●他人からフィードバックの機会を多く持つ
それは、他人から自分自身が有能感を持てるようなフィードバックを引き出す機会を、多く持つということです。具体的には、他人からのフィードバックを求め、自分のそれまでの成果を外に向かって発信することを積極的に行うことです。

もちろん他人からのすべてのフィードバックが、自身の有能感につながるものではありません。しかし、多くの周りの人たちの傾向として、チャレンジしている人を見ると応援したくなるということがあると思います。自分とその人を重ね合わせで、その人のチャレンジを自分自身の問題としてとらえてくれるからではないかと思います。人がスポーツ選手を熱狂的に応援するのも、このような心理があるからではないでしょうか。

しかしここで一点重要なことがあります。それは、発信者が謙虚で誠実でなければならないということです。そうでないと、受け手はチャレンジする人を自分と重ね合わせるどころか、ジキルがハイドになるように一瞬にして残酷になり、敵対視をするようになるからです。そうすると、発信者はむしろ辛辣なフィードバックを受けることになります。

●ネガティブなフィードバックへの対処法:自分自身の耐性を培う機会と考える
しかし、自分がどんなに謙虚で誠実であっても、数多くの場で発信すれば、当然のごとくネガティブなフィードバックを受けることもあります。ソーシャルメディアといったインターネット上の匿名性のある媒体では、なおさらです。それではどうしたら良いか。それは、他人のネガティブなフィードバックに対して、耐性を持つように積極的に考えるとうことではないかと思います。

人間はそもそも優秀であっても、上で議論した「インポスター症候群」を持つ傾向があるので、もちろんこのネガティブなフィードバックに対する耐性を持つことは簡単ではありません。しかし、以下のような方策があります。

〇自身の批判への耐性を鍛える良き機会
ネガティブなフィードバックは、自身のそのような自分への批判への耐性を鍛えるものであると、日々考えるようにすることです。そうすると、徐々に批判を前向きに受け入れることができるようになり、最終的には自分の耐性を高めることができるようになります。

〇得られる自己の有能感は批判というコストに比べてはるかに大きいと考える
そのような他人からの批判は、有能感を高めるためには避けられないコストであり、そのようなコストを甘受すれば、コストに比べてはるかに自分自身にとって価値のある自己の有能感を高めることができるという事実に、目を向けることです。

次回もこの議論を続けたいと思います。

(浪江一公)