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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第227回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(74): KETICモデル-思考(16)
「知識・経験を関係性で整理する(4)」

(2020年3月9日)

 

セミナー情報

 

今回は、第224回で提示した原因の結果の4つの類型の内、3つ目の逆ピラミッドについて議論します。

●逆ピラミッド(複数の原因→1つの結果):まさにシュンペーターのイノベーションの定義

この複数の原因から1つの結果が生まれる関係を、上下の図で表現すると、逆ピラミッドの構造となるために、ここではこの類型を「逆ピラミッド」と呼んでいます。これは実はまさに、シュンペーターの言う「既存の知識の新結合でイノベーションが起こる」状況を言っています。

●逆ピラミッドが起こる3つの要件

この逆ピラミッドが起こる要件は、以下の3つではないかと思います。

○要件1:多様な知識・経験を持つ
○要件2:『超』俯瞰的視野を持つ
○要件3:多様な思考パターンで考える

●要件1:多様な知識・経験を持つ

新結合を起こすためには、多様な知識や経験が必要です。ただし、この部分はまさにKETICモデルの最初のK:知識とE:経験の中で議論してきた部分もあり、また現在の議論の対象のT:思考の中で既に「物理量で整理する」の中で扱ってきた部分でもありますので、ここでは議論はしません。

●要件2:『超』俯瞰的視野を持つ

俯瞰的な視点の重要性は、様々な場面で言われていることです。しかし、多様な情報や経験から新結合を起こそうとした場合、自分の頭の中で整理された俯瞰的な知識や経験だけでは、新結合が起こる可能性はそれほど高くはありません。更に求められるのが、できるかぎり「多元的に」世界を俯瞰すること、言い換えると矛盾するような知識や経験も、頭の中に定着させて、それを前提に『超』俯瞰することではないかと思います。

そのような状態はイメージ的にいうと、頭の中に脈略を持ってある程度整理された系が複数あり、一方ではその整理された系の間の関係は、矛盾や未整理の状態を許容し、それらの系が頭の中に同居するような状態ではないでしょうか。

しかし、脈絡のない情報や経験は頭の中に納めることが難しいということがあります。試験勉強などでも、それまで授業中に教えらえたことを、脈絡のなく丸暗記をすることは大変難しいものです。そのために、学んできた知識を一度全体を整理することで、頭の中に定着するということは皆経験していることだと思います。

丸暗記が難しく、また記憶として定着されない理由は、人間の頭は、全体の整合が取れていない情報は、異物として排除される傾向にあるからではないでしょうか。異物が排除される状況が、まさに「頭が固い」と言われる状況です。

脈略のない未整理の情報が排除される理由は、私は脳科学の専門家ではありませんが、人間の脳の記憶能力や処理能力の限界から来ているものと思われます。例えば太古から人間が猛獣に襲われるような状況において、瞬時に対応策を考え行動を起こすには、脳の中で短期間で思考しなければなりません。サバイバルのためには、整理された少量の情報のみあればよかった、そういう脳の特質を現代の人類も持っているということがあるのではないでしょうか。

したがって、自分の思考体系の中に納まらないような知識や経験が、イノベーションのきっかけになる可能性が高いことを理解し、一方で意図しないと人間の脳にはそのような知識を排除する強い仕組みが組み込まれていることを理解する必要があります。そしてその上で、貪欲に非整合の知識や経験を吸収し、頭の中に記憶し、それを前提に『超』俯瞰することすることが重要ではないかと思います。

次回は、要件3:「多様な思考パターンで考える」について議論します。

(浪江一公)