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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第217回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(64): KETICモデル-思考(6)
「知識・経験を時系列で整理する(4)」

(2019年10月15日)

 

セミナー情報

 

今回も、前回に引き続き、「思い付く」ための「知識・経験を整理するフレームワーク」の中の、知識・経験を時系列で整理する「期」ついて議論をします。

●市場の発展に伴う主導者となるプレーヤーの推移

マーケティングの重要な概念の1つに、市場の発展に伴う主導者の推移を表すものがあります。これは市場が形成され、成長し、成熟し、衰退するまでの時系列を、その各段階での主導者をイノベーター、アーリー・アダプター、フォロアー、ラガードという名称を付けられたプレーヤー(顧客でもある)で分類するというものです。これは前回紹介した、揺籃期、成長期、成熟期、老衰期に近い(注:全く同じではない)期の概念に、それら期を主導するプレーヤーの名称(とその特徴)で整理したものです。

市場が形成される前には、その市場を形成するための準備段階とそれを行うプレーヤーが必要であり、この概念ではそれらプレーヤーにイノベーターという名前がつけられています。まさに市場がまだ存在しない段階で、新しいニーズを自ら認識し、さらにそこに止まることなく、自らが何らかの活動を行うのがこのイノベーターです。生産財の場合には自分達が自らの製品の新しいニーズを認識し、その新しい製品を実現するために新しい概念の新しい部品や材料をサプライヤーに要求するようなプレーヤーです。消費財の場合には、自らの問題を解決するために、自らが試行錯誤を行ったり、サプライヤーにそれら新しい概念の製品を作るように働き掛けるプレーヤーです。ここで重要なのが、イノベーターが活躍するのは、市場が実際に形成される前の準備段階であるということです。

一方、アーリー・アダプターは、市場が形成され始めた後の間もない時期に、その全く新しい概念の製品の価値を認識し、すぐに購入し使用する顧客です。通常多くの顧客は、全く新しい概念の製品には懐疑的で、自らが率先して本当に自分達に価値を手にすることができないリスクを取ってでも、新しい製品に手を出すということはしません。しかし、このアーリー・アダプターは新しもの好きで、それゆえリスクを取ってでも購入する顧客です。

そして次に登場するのが、フォロアーです。フォロアーは自身のニーズやその新しい概念の製品の価値を初期においては認識しておらず、アーリー・アダプターの利用後の評判や他のフォロアーへの普及を目にして、初めて購入する顧客です。通常はほとんどの顧客はこのフォロアーに該当します。彼らは、イノベーションの創出への貢献は全くないものの(イノベーションが起こった後に出現する)、市場を形成する上では、極めて重要なプレーヤー(顧客)です。これらフォロアーが存在しなければ、市場は立ち上がらず、少数であるアーリー・アダプターやイノベーターのみの間で普及し、短期に市場は消滅するもしくは小規模で推移するだけで終わる、ということが起こってしまうからです。

最後に登場するのがラガードです。Laggardにはのろま、ぐずなどの訳語が当てられているように、一番最後にその製品を購入し、使用する顧客層です。否定的な意味に捉えられがちですが、必ずしもラガード全てがそうではなく、中には慎重で保守的な顧客で、自分達の意見を(それが正しかろうが間違っていようが)明確に持っているラガードも少なからず存在します。

●「期」プラスαでの整理

この「市場の発展に伴う主導者となるプレーヤーの推移」の概念は、知識・経験の整理の1つの例です。ここから、得られる普遍的な意味合いは、期のみならず、他の知識・経験を区分し括る概念(上の例では各段階を主導するプレーヤーの名称と特徴)を導入することで、よりその整理が、そもそもの整理の目的である「思い付く」にとって有効になるということです。

上の場合では、知識・経験を区分し括る概念はその期の主導的なプレーヤーでしたが、その他の例として、その期に強く影響を与えるもの(マクロ環境分析で利用されるPESTで代表される政治-Politics、経済-Economics、社会-Society、技術-Technologyなど)やその期が生み出す顕著な環境・状況や結果などがあるのではないかと思います。

(浪江一公)