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『価値づくり』の研究開発マネジメント 第204回

普通の組織をイノベーティブにする処方箋(51): KETICモデル-経験(1)
「百聞は一経験にしかず」

(2019年4月8日)

 

セミナー情報

 

今回からイノベーションに必要な要素を表したKETICモデルの2つ目、Experience(経験)の議論に入っていきたいと思います。

●「知識」は「経験」から生み出される
ここまでKETICモデルの1つ目のKnowledge(知識)を議論してきましたが、知識を得る方法には、単純化していえば、他者が既に生み出した知識を他者から自分に移転する方法で学ぶ方法と、自分の経験の中から知識を抽出・創出し、それを学ぶ方法があります。

これまで何度か、知識については、形式知と暗黙知があることを議論してきました。両者はそれぞれ、「形式知とは、文章や図表、数式などによって説明・表現できる知識のこと」、「暗黙知とは経験や勘に基づく知識のことで、個人はこれを言葉にされていない状態でもっている」(出所:コトバンク)と説明されています。

形式知と暗黙知やその関係性といったこのあたりの議論は、一橋大学の野中郁次郎名誉教授のSECIモデルなどの中で言われていることですが、この定義で言及されている「勘」も経験の中から得られるとすると、最終的に形式知を得る重要なルートとして、「経験」→「暗黙知」→「形式知」があることが分かります。もちろん現実にはもう少し複雑で、他者が既に生み出した知識と自分の経験から、新たたな知識を抽出・創出するということ、すなわち「経験+形式知・暗黙知」→「暗黙知」→「形式知」といったようなことが行われていると思います。

いずれにしても、自分自身が新たな知識を得るには、「経験」は大変重要な役割を担います。

●「百聞は一経験にしかず」
有名な言葉に「百聞は一見にしかず」がありますが、更には「百聞は一経験にしかず」(少し語呂が悪いですが(笑))です。すなわち、人から聞くだけでなく、五感を持って実際に自分でやって数多くの経験することで、上の「経験」→「暗黙知」→「形式知」のモデルで言うと、多くの「暗黙知の前提」を得ることができるのです。孔子の言葉に、「聞いたことは忘れ、見たことは思い出し、やったことは忘れない」がありますが、孔子はまさにこの点について言及していると言ってよいでしょう。

●形式知は他人の頭脳の細いストローを通して得られたものに過ぎない
上で触れた形式知は大変便利なものです。なぜなら、既に文章や図表で表されている知識ですので、暗黙知に比べて他者から学ぶことは遥かに効率的に行うことができます。そのため、人が学習する場合には、本や資料や人を介してこの形式知を中心に学ぶということをする訳ですが、初級者が学ぶにはそれでも良いでしょうが、中級者、上級者にとってはそこには重大な落とし穴があります。

それは、形式知は現実に存在する潜在的知識の極々一部に過ぎないということです。そもそも形式知は他人の極めて限られた経験とその他知識を源流としているからです。私は「形式知は他人の頭脳の細いストローを通して得られたものに過ぎない」と考えています。また形式知は学びや伝達が効率的にできるからこそ、自分達の競合者も同様に効率的に得ることができ、差別性が生まれにくいことがあります。

したがって、イノベーションという革新を実現するには、自ら数を多くを「経験」することが極めて重要になってくるのです。

●経験を得る対象の3つの分野:TAD
それでは、イノベーションに結びつくような経験をするにはどのようにしたら良いのでしょうか?私は、時間軸(Time)、分野軸(Area)、深度軸(Depth)の3つ軸(TADと名付けています)で、考えることが大事であると考えています。この議論は次回以降行いたいと思います。

(浪江一公)