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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第201回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋(48): KETICモデル-知識:自社の強み(5)
「強みを未来志向で設定する第2要件:創出顧客価値が大きい」

(2019年2月25日)

 

セミナー情報

 

今回は、前回から引き続き「どう強みを未来志向で設定するのか」を議論します。前回は「将来に向かって強みを設定する4つの要件」とその第1要件の「事業ビジョン・事業ミッションへの貢献が大きい」を議論しましたが、今回は第2要件の「創出顧客価値が大きい」を議論します。

●第2要件:創出顧客価値が大きい
第197回と198回では、J.B.バーニーの強みの抽出の視点であるVRIOについて議論しました。この第2要件の「創出顧客価値が大きい」は、VRIOの中のValue(経済価値)に相当するものです。VRIOではValueは、「自社の強みが自社の経済価値、すなわち収益に結びつかなければならない」ことから設定されているものです。

それではVRIOのValueすなわち経済価値に結び付くような強みとは、もう少し具体的に言うとどういうものでしょうか?それはその強みの顧客にとっての価値、すなわち創出顧客価値、言い換えると顧客が享受する価値が大きいということです。顧客が享受する価値が大きければ、顧客はその製品やサービスに対しより大きな対価を支払ってくれるからです。

例えば炭素繊維技術という強みを持っていれば、顧客の製品、例えば航空機メーカーが顧客であれば、航空機の機体を大幅に軽量化することができます。そうすれば、航空機の燃費は向上しますし、より多くの荷物や乗員を輸送することができますし、また機内の設備をより充実することにより機内空間をより快適にすることができます。そのため航空機メーカーは、より高い価格で航空会社に航空機を販売することができます。つまり、炭素繊維メーカーは、顧客である航空機メーカーに対し大きな顧客価値を提供することができ、その結果航空機メーカーはより大きな対価を支払ってくれます。

●顧客価値拡大モデル:VACES

ここで創出顧客価値を考える場合に重要な点が、顧客は何に対して価値を認識するのかを広く理解しておくことです。顧客は決してQCD、すなわちQ(機能・品質)、C(価格)、D(納期)だけでモノを買ったり、支払う対価を決めるわけではありません。皆さんの会社が提供している製品やサービスの周りには、様々な提供顧客価値拡大機会が存在していますので、そのような顧客価値提供機会を下で説明するVACESのような広い視点で見つけようと努力することで、最終的により大きな顧客価値を提供することができるのです。

このVACESとは、顧客価値拡大の機会をV:Value、A:Anxiety、C:Cost、E:Empowerment、S:Societyの5つの視点から議論をしたものです。

このVACESの内容に関しては、また時期を改めて詳しく議論したいと思いますが、一つだけ事例を挙げたいと思います。例えば、VACESのCはQCDのCとは、おなじCostの頭文字ではありますが、決定的な点で大きく異なります。QCDのCは、顧客から見た自社の製品の値段の低減や、それを実現するための自社のコストの低減を目的とした視点です。すなわち、自社のコストを下げて、自社の製品の価格を下げることを考えるものです。

一方でVACESのCは、顧客のコスト全体。すなわち、顧客は皆さんの会社の製品以外にも様々な製品を購入し、加えて顧客が企業である場合には、顧客内では必ず人件費が発生しています。顧客の関心事は、この全体のコストを下げることで、かならずしも皆さんの会社の製品を安く買うことを最優先に考えている訳ではありません。そこで、皆さんの会社が顧客の全体コストの低減を実現できるような製品やサービスを提供することで、顧客に「全体コストの低減」という価値を提供することができます。その結果、顧客はより大きな対価を支払ってくれます。

(浪江一公)