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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第171回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋(18):非顧客の無消費に目を向ける

(2017年12月11日)

 

セミナー情報

 

前回は、イノベーションの創出には、顧客の現場を知ることが重要という議論をしました。しかし、現場を既存の顧客だけに限定していては、その効果も限定的です。今回は現場を広く考える重要性を、既存の対象市場の外にいる「非顧客」を対象にするという議論をしたいと思います。

●非顧客とは

非顧客とは、ピーター・ドラッカーが提唱している言葉で、元の英語ではnon-customerと言います。つまり、「顧客に非ず」という意味です。しかし、私はこの言葉は誤解を招きやすいことばで、本来は「非市場」と翻訳すべきと考えています。

なぜなら、ドラッカーがこの言葉を使って言いたいのは、従来自社の見る「市場」の視野に入ってこなかった顧客に目を向けることを言っているからです。ですので、マーケティング用語で、「対象市場」をセグメンテーションし、その上で対象とする市場をターゲティングで設定するわけですが、そもそも非顧客は、ここで言う「対象市場」の外、すなわちセグメンテーションの対象外の顧客の事を言います。

●バイクメーカーの対象市場:「バイクの好きな人」

ここで例をあげてみたいと思います。バイクメーカーの対象としている市場は、バイクの好きな人やバイクがあれば生活や仕事が便利になる人です。通常バイクメーカーの商品企画や開発技術者はそもそも皆バイクが好きな人たちですので、このような人たちの気持ちは大変良く分かります。加えて、これまでこのような市場に様々な調査を行い、また実際に様々な製品を発売し、成功も失敗も経験の蓄積がありますので、その持つ知見には極めて大きなものがあります。

しかし、これまでの活動や思考の対象は、もっぱらその予備群も含めバイクの好きな人やバイクがあれば生活や仕事が便利になる顧客でした。そのため、ずっとそのような思考・活動を続けてきた結果、言い換えるとまさにエドワード・デボノの言葉をかりるとそのような垂直思考の結果、極めて視野が狭くなっている可能性があります。

●バイクの非顧客は「バイクの嫌いな人」

世の中、特に日本では、バイクが嫌いな人は沢山います。特に、かつての暴走族の存在や今でも道路を爆音をあげて走るライダーの存在、またなぜかバイクは環境に悪い排気ガスを沢山出すというイメージなどが原因です。そのような要因もあり、国内でのバイク市場は長年にわたり縮小の道をたどってきました。

しかし、バイクと呼ぶかどうかは別として、人の移動そのものや移動の過程で感じるポジティブな感覚のニーズを持つ「バイクの嫌いな人」、すなわち非顧客が存在している筈です。

先日の日経新聞の記事に、あるバイクを製造している企業の社長の言葉がありましたが、その社長いわく、「若者にもっとバイクをアピールすることを考えていきたい」という趣旨の言葉ありましたが、この言葉からは、依然この企業は既存の思考に陥っているように思えます。

●非顧客の無消費を対象にする

ここで重要な事が、非顧客に既存の価値を提供することではありません。バイクの例では、バイクメーカーが既に認識しているバイクの楽しさやバイクの便利さをアピールすることではありません。従来のバイクメーカーの提供価値ではなかった、新たな価値を非顧客に提供することです。そのような状況を「無消費」と言います。すなわち、企業は「非顧客の無消費」に目を向け、そしてその現場に触れる活動もしなければならないのです。

(浪江一公)