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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第138回:オープンイノベーションの経済学(その2):比較優位の原則

(2016年8月29日)

 

セミナー情報

 

前回はオープンイノベーションの経済学のキーワードとして「範囲の経済性」を議論しましたが、今回は「比較優位の原則」の議論をしていきたいと思います。

●「比較優位の原則」とは

「比較優位の原則」とは、18世紀の英国の経済学者であるデイビッド・リカードが提唱した理論です。その内容は、ある2つの国の経済において、より高い生産性を持つ製品の生産に特化し、低い生産性の製品はもう一方の国より輸入することによって、両国は互いに多くの品目の生産ができるという国際分業の利益を説明する理論です。

例えば、A、B両国とも1000人の労働者がいて、自動車と米のみの経済とし、A国では年10人で自動車1台、20人で米1トンを生産、B国では年100人で自動車1台、50人で米1トンが生産できるとします。

それぞれの国が個別に勝手に生産するものとし(「個別生産」)、500人づつ自動車生産と米の生産に振り向けると、両国合計で、自動車生産は55台(A国:500人÷10人+B国:500人÷100人)、米の生産は35トン(A国:500人÷20人+B国:500人÷50人)となります。

ところが分業で(「分業生産」)、A国は自動車、米にそれぞれ600人と400人、B国は1000人全員を米の生産に振り向けると、自動車生産は60台(A国:600人÷10人+B国:0人÷100人)、米の生産は45トン(A国:400人÷20人+B国:1000人÷50人)と自動車も米も両方の生産量が増加します。

注:上の例で、「分業生産」においてA国が1000人全員を自動車に振り向けることを前提に計算すると、自動車の両国合計の生産量が増加する一方で、米の両国合計生産量が下がってしまい、「個別生産」と「分業生産」の比較が明確にできないため(自動車の生産台数と米の生産量を合計して比較しても意味はない)、分業の場合は、敢えて先進国は600人(「個別生産」の場合の500人から、「分業生産」では100人増やす)としています。

この理論のポイントは、A国はB国より生産性が高く、かつ(米の生産性においてA国:1トン/20人がB国:1トン/50人より高くても)自国の中ではより生産性が高い自動車生産に専念し、B国は自国内では自動車に比べ米の方が生産性が高いので、米の生産に力を入れるということです。つまり「分業生産」では、「個別生産」より大きな生産量が実現できるというものです。

●「比較優位の原則」のオープンイノベーションの文脈での意味

この「比較優位の原則」をオープンイノベーションの文脈で、国ではなく企業で考えると(A社、B社)、例えば、自社で保有する様々な機能の中で、相対的に強い機能(上の例で言うとA国は自動車の生産、B国は米の生産)に特化し、そうでない機能は他社の機能を使わせてもらうのが両社にとって共にその経済性において合理的であるということです。

●「範囲の経済性」と「比較優位の原則」の組み合わせ

この「比較優位の原則」と前回議論した「範囲の経済性」は、何か関連があり、この二つをオープンイノベーションの中で関連付けることで、面白い議論ができそうです。この議論は次回で引き続き行います。

(浪江一公)