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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第121回:価値づくりに向けての三位一体の技術戦略(その2):
3つの要素の間での相乗効果

(2015年12月14日)

 

セミナー情報

 

今回も前回から引き続き、価値づくりに向けての三位一体の技術戦略について議論をしたいと思います。

●『価値づくり』というイノベーションの創出のメカニズム

経済学者でありイノベーションの研究者であるシュンペーターは、「イノベーションとは新結合である」と唱えています。つまり、イノベーションは天から降ってくるものではなく、既存の知識の新しい組み合わせ(新結合)で生まれるということです。私は、このシュンペーターの考えに則り、『価値づくり』、すなわち顧客に対して大きな価値は、何らかの既存の知識の新結合が起こることにより生まれると考えています。

●『スパーク』の原料としての『市場知識』と『技術知識』

それでは、何の新結合によって顧客への大きな価値が生まれるのでしょうか?それについては、私は市場知識と技術知識の新結合(スパーク)によるものと考えています。なぜなら、顧客価値創出をするためには、何に対して顧客は価値を認識するかについての知識を持っていなければなりません。顧客ニーズに関するマーケティングの研究から明らかにされている点に、顧客に「何が欲しいですか?何に困っていますか?」と聞いても、顧客ニーズは得られるものではないことがあります。なぜそうなのかと言うと、顧客は、顧客自身のことを十分理解しているわけではないからです。したがって、顧客が認識する価値を理解するためには、様々な市場(顧客の集合体)に関する断片的知識を広くかつ深く集め、蓄積することが重要となります。そして、そこに基づき、顧客が何に『潜在的』に価値を認識するかを想像力豊にし「想定」しなければなりません。

しかし、いくら市場の知識を豊富に持ち、そこから『潜在的な顧客価値』を認識したとしても、それを実現するにはその実現の方法、すなわち技術についての知識がなければなりません。この技術知識は、必ずしも自社が知っている、もしくは保有している技術であるとは限りません。なぜなら、顧客価値の創出の機会は、自社の都合(その技術を知っている、保有している)とは全く独立して存在するからです。そのため、実際には現実的には不可能ですが、世の中の技術についてのすべての知識を知っていることが理想です。

三位一体のモデルにおいては、この市場知識を収集する活動が「市場起点の思考と活動」で、技術知識を集め深化させる活動が「オープン・イノベーションの徹底」と「コア技術戦略の追求」となっています。

●三位一体の三つの要素間での3つの『スパーク』

このようなメカニズムがあるので、三位一体のモデルにおいては、「市場起点の思考と活動」の結果の『市場知識』と、「オープン・イノベーションの徹底」と「コア技術戦略の追求」の結果の『技術知識』がスパークを起こし、『価値づくり』すなわち、顧客にとっての大きな価値が創出されます。

以上に加えて、顧客価値創出に向けては、技術同士、すなわち、『社内の技術知識』と『外部の技術知識』との間でもスパークが起こります。自社のこの技術と外部のこの技術を組み合わせることで、大きな顧客の価値を実現できるという考え方です。

以上より、顧客価値を創出する『スパーク』は、三位一体モデルの、

-「市場起点の思考と活動」と「オープン・イノベーションの徹底 」
-「市場起点の思考と活動」と「コア技術戦略の追求」
-「コア技術戦略の追求」と「オープン・イノベーションの徹底」

という三つの要素の間で発生するのです。

(浪江一公)