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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第96回:多様なソースから情報・知識を集める(その11)
情報・知識の『源』を多様化する(10):補完品企業-活用されていない有力情報源

(2014年12月15日)

 

セミナー情報

 

前回までは、自社内や様々な顧客から情報や知識を収集する活動について議論してきました。今回は、補完品企業を対象とした情報・知識の収集について議論をしたいと思います。

●補完品企業とは

補完品企業とは、自社の顧客が購入している他製品の提供企業を意味します。例えば自社が自動車のハンドルメーカーであれば、自社の顧客である自動車メーカーに他の製品、例えばエアバックを提供している企業のことを言います。

●補完品企業から情報を収集する意義

補完品企業から情報を収集するメリットには、どのようなものがあるのでしょうか?

1つには補完品との関係が上のハンドルとエアバックのように関係が深ければ(通常エアバックはハンドルの中に格納されている)、両者が別々の独立した企業で設計、製造されることで、エアバックのハンドルとの取り合い上の制約やエアバックのハンドルへの組み込み作業上の問題など両者が最適化されていないという状況が想定されます。したがって、両者の問題点等の情報を持ち寄れば、最適化が可能となり、機能アップ、小型化、部品点数の削減、組み立て作業の工数低減等の効果が期待されます。

さらには、例えばハンドルメーカーが、ハンドルの一部としてエアバックを自社の製品に組み込んでしまうということが考えられます。実は既にこのハンドルとエアバックのモジュラー化は実際に行われています。また、自動車用モーターを製造する日本電産が最近ドイツの車載ポンプメーカーの買収を発表したのは、まさにこのような例に該当します(車載ポンプの駆動にはモーターが利用される)。

そして、さらに一歩進めて、自社側の全く新しい技術で、補完品を不要にするということも可能かもしれません。

また、自社は補完品企業にとっては競合企業ではありませんので、複数の補完品企業と情報交換を行うことができる立場にあります。そうなると、自社は個別の補完品企業より、より俯瞰的に市場の全体像を把握することができるようになり、個別の補完企業の情報を超えた情報を手に入れることができる訳で、従来補完企業では発想できていなかった新しいアイデアを発想できる可能性が高まります。

つまり、自社製品の企画の対象には、自社の従来の製品だけでなく、視野を広く持ち、関連する補完品やサービスの情報・知識を集めることで、より良い製品、革新的製品が実現できる可能性が高まります。多くの企業で、テーマの創出を行う場合には、これら補完企業の製品にまで視野を広げて考えてはいません。まさに、補完品企業の情報は活用されていない重要情報ということが言えるでしょう。

●補完品企業やその製品品についての情報を収集する方法

それでは、補完品企業およびその製品について情報を収集する方法には、どのようなものがあるのでしょうか?

1つ目に、単純ではありますが、直接補完品企業と打合せを持つということがあります。補完品企業は競合企業ではありませんし、お互いにとって補完品企業ですし、また場合によっては、顧客とサプライヤーの関係になる可能性もありますし、お互いに情報交換するメリットはおおいにありますので、積極的にやらない手はありません。

2つ目に補完品の製品を購入し、自社の製品との組み合わせで、顧客そしてB2B製品の場合には顧客の顧客としてテストを行うということが考えられます。

3つ目に、その補完品製品もしくはサービスが実際に製造されたり、提供されたり、顧客の生産現場で組み込まれている場を観察するということもあります。実際に私のクライエント企業でエレクトロニクス設備用機器を製造しているメーカーでは、その装置が据え付け業者(補完品企業という位置づけ)により据え付けられている作業を観察し、製品アイデアに生かしているという例があります。

以上2つ目、3つ目については、実際には自社の顧客がそのような視点で、作業を行っている訳ですが、その場合は顧客からそのような情報がもたらされるわけで、情報量としては限定的です。自社で、実際の現場に身をおき、直接経験することで、形式知たけでなく暗黙知も含めた情報収集が可能となります。

4つ目に、究極の姿として上で紹介した日本電産のように、補完品メーカーを買収するということも考慮の対象となります。

(浪江一公)