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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第89回:多様なソースから情報・知識を集める(その4)情報・知識の『源』を多様化する(3)

(2014年9月1日)

 

セミナー情報

 

前々回から、「多様なソースから情報・知識を集める」のSMP(Source/Member/Perspective)モデル中の「情報・知識の『源』を多様化する」(Source)について議論をしています。前回は自部門内での情報・知識の『源』の多様化の話をしました。今回は、グループ企業を含む社内全体での情報・知識の『源』の多様化の議論をしたいと思います。

■社内・グループ企業の知識・情報:未活用の重要経営資源

近年、社外に技術やアイデアそして自社にない機能を求めるオープンイノベーションを積極的に進める企業が増えてきています。しかし、もちろん企業経営において、オープンイノベーションの重要性を否定するものではありませんが、オープンイノベーションと同様に重要なのが、グループ企業を含む自部門以外の社内のアイデアや情報・知識の活用です。

企業を一体の組織として経営する理由は、個人々々もしくは別々の組織単位で機能するよりも、1つの組織として運営した方が効果的・効率的であるからです。別の言い方をすると、個人々々や別々の組織の間でシナジーを発揮させることができるからです。しかし一方で、組織が大きくなればなるほど、更なる効率向上を求めて、組織単位で分業化を行うものです。このような分業化により、社内の組織間の本来あるべきシナジーは阻害されるようになります。

このように、組織は本来シナジーに基づき機能するという強みを持ちながら、一方で効率化を求め、シナジーを消し去る方向で運営されているのです。したがって、視点を変えると、組織間また個人間のシナジー、すなわち社内に存在する多様な知識・情報は、企業における未活用の経営資源と言うことができます。

社内での情報・知識の活用に関しては、三菱ケミカルホールディングの小林喜光社長は、以下のように言っています。

「縦割りの研究開発体制に横ぐしを刺し、組み合わせの論理で面白い製品やサービスを生み出したい」

まさに小林社長は、研究開発テーマ創出において、この未活用のシナジーという経営資源の価値の大きさを認識されているのです。

私の経験での先日このような経験がありました。あるクライエントとの研究開発テーマの内容についての議論の中で、先方の考えるその研究開発テーマが創出する顧客価値の定義が小さくまとまり過ぎていると感じたため、ある機能を付加して、その研究開発テーマが創出する事業の定義の拡大を提案しました。すると、先方から「そう言えば、その活動は、○○(グループ企業)でいつもやっているよ」という話になり、話が大変良い方向に展開したということがありました。

このような組織間のシナジー活用の可能性は、大きな企業であれば組織は海外にまで広がり、より大きくなる傾向がありますが、一方で、数十人規模の組織になれば、かならず分業化によりセクショナリズムが存在するようになりますので、組織の大小にかかわらず、自部門以外の人達の多様な知識や情報を活用しない手はありません。

■3Mにおける組織内の知識・情報の活用の仕組み
このような組織内の知識・情報(特に技術に関する)を活用している例が、イノベーションで有名な3Mです。

○テクニカルフォーラム

3Mが、プラットフォーム技術を設定し、社内全体で組織横断的に、それらプラットフォーム技術を核に様々な製品や事業を創出するという戦略をとっていることは有名です。現在プラットフォーム技術は40以上もあり、定期的に経営陣により見直されています。

3Mではこのプラットフォーム技術毎に、テクニカルフォーラムという事業部門の垣根や国境を越えて技術とテーマアイデアの交流を促進し、また技術者の専門知識の強化・拡大をするための仕組みが導入されています。このテクニカルフォーラムには、3Mの全技術者(現時点で8,400人)が参加する大規模なものです。この活動は既に1951年にスタートし半世紀以上もの長い間利用されてきた制度で、興味深いことに技術者の自主的な活動により運営されています(ただし、活動資金は会社が負担)。

具体的な活動としては、年2回技術者が自分の技術を全社に発表し、また他の技術者の発表を聞く場を設け、技術の交流を行います。また、技術毎の勉強会(チャプターと呼ばれる)も開かれています。3Mでは、このような活動からも、多くの製品や事業のアイデアが創出されています。

○15%カルチャー

3Mの15%ルールは有名ですが、現在は15%カルチャーという名前に変更されています。この変更は、「15%ルール」は会社が決めたルールではなく、自主的に活用するカルチャーであるという理由によります。15%カルチャーとは、技術者・研究者の自分の時間の15%程度を限度に、自分に組織内で与えられた仕事以外に、自分の意思で自由に時間を使って良いというものです。3Mでは、その時間を使って、他部門の人達を支援するということなどが行われています。

たとえば、上で紹介したテクニカルフォーラムで知り合った別々の組織に属する研究者の間で、ある研究者が別の研究者にあるテーマの支援の依頼をすると、もう一人の研究者が自分の15%の時間を使って、その依頼者を支援するということができるわけです。3Mではこのような、技術に関し、組織の垣根を越えた交流の促進が明文化されています。

○「技術は全社に属す」

3Mでは、技術は全社の資産として位置付けられています。

企業が事業部制をとるようになると、各事業部は、お互いに協力するどころか、競合企業にもなりえます。私の以前に勤務していたエレクトロニクス会社では、同じ製品分野を複数の事業部門が対象としていたため、事業部門同志は明確に競合企業であり、反目しあっているという状況がありました。各事業部門は収益目標の達成という大きな責任が与えられていますので、そのような状況になるのはある意味必然とも言えます。

3Mとて同様であると思います。しかし、3Mでは、こと技術に関しては、このように明確に全社の資産であると位置づけられているのです。そもそも技術は使っても、減ることはありませんし、むしろ技術は使うことにより、より進化し深化していくものです。そのような活動を全社横断的に行えば、その技術の進化・深化は大きく促進されます。まさに3Mのプラットフォーム戦略はその点を狙っています。このように3Mでは、全社に存在する技術を積極的に活用する風土・仕組みがあるのです。

○技術を使って組織に横串を通す

知識・情報は技術に関するものとは限りません。市場の情報や、他組織の持つその他の能力や資産なども含まれます。3Mの場合では、技術を中心に組織間のシナジーの発揮の工夫がなされていますが、このような技術を使って横串がさされる工夫があれば、当然技術以外の情報の流通も促進されるということが起こります。

次回も、引き続き社内・グループ企業の活用の議論を行います。

(浪江一公)