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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第80回:革新的テーマ創出のための環境の用意

(2014年4月28日)

 

セミナー情報

 

 前回は革新的テーマ創出に向け、3つの原料を利用してスパーク(発火)を起こすためには、4つの要件が必要であることを議論しました。今回はその中の最初の一つ、「革新的テーマ創出するための環境の用意」について議論します。

1.なぜ「革新的テーマ創出のための環境の用意」が必要か?

 なぜ「革新的テーマ創出のための環境の用意」が必要なのでしょうか?

 前回の繰り返しの議論になりますが、仕事を分類する2つの軸に、『重要度』と『緊急度』があります。この2つの軸に沿って、それぞれ「高い」、「低い」に分けることで、4つの象限から構成されるマトリクスの図を作ることができます。まず『重要度』も『緊急度』も高い業務は、放っておいても優先的に取り組まれます。また『重要度』が低くても、『緊急度』が高い仕事も同様に優先的に取り組まれます。しかし、『重要度』が高くても、『緊急度』が低い仕事は、それでなくても多忙な中では、よほどの時間的な余裕が生まれない限り、取組がなされることはありません。

 まさに、革新的テーマの創出という仕事は、この『重要度』が高いが『緊急度』は低い典型的業務で、日々『重要度』が高かろうが低かろうが優先的に取り組まれる『緊急度』の高い業務の中に埋没してしまう業務なのです。

 それでは、このような典型的な『重要度』は高いが、『緊急度』の低い業務である、革新的テーマの創出に取り組ませるための環境について、以下で触れたいと思います。

2.革新的テーマ創出を含むステージゲート・プロセスを、企業のマネジメントプロセスの中核に据える

 まずは、革新的テーマ創出を含めた企業の骨太の中核マネジメントプロセスとして、ステージゲート・プロセスを構築し、運営することです。革新的テーマを創出し、それを新製品・新事業として育て、将来の企業の収益の源にするという活動は、まさに企業の中核のプロセスです。しかし、現状では経営者の関心の多くが、このプロセスの後半、すなわち開発、生産といったことに費やされ、前半のプロセスにはあまり関心が示されないという企業は多いものです。その理由は、まさに上の1で議論した現象が、経営者に関しても見られることが原因です。したがって、企業として革新的テーマの創出し、この活動から生み出されるテーマを新製品・新事業として育て、商業化・事業化を行うこの一連のプロセスを、すべての経営者・社員が頭に描きながら経営に当たり、活動することができるように、企業の中核の経営マネジメントプロセスとして位置づけることが必要となります。そしてまた、それによりテーマ創出は単独の独立した活動ではなく、その後に続く一連の活動の連鎖としてマネジメントされることで、革新的テーマの創出が中核の経営プロセスの中で最初のステージとして重要視され、確実に実行されるようになります。

3.革新的テーマ創出活動を重要な業績評価の対象とする

 このようなプロセスの存在と並行して行い、さらにこの活動を強化する方法が、革新的テーマ創出を組織全体に強制するためにテーマ創出活動に目標を設定し、それを業績評価の一つの基準とする仕組みです。たとえば3Mでは、各事業部長は事業部門の評価として、売上高利益率、自己資本利益率、売上高成長率といった一般的な指標の他、常に売上高の新製品比率で評価されます。なぜなら、売上高新製品比率とその他の財務指標の間には明確に正の相関があるからです。目標の売上高新製品比率において目標達成ができないからといってすぐに事業部長のポジションを解任されるということはないようですが、2期、3期と同様の状況が続けば、当然そのようなことは起こります。このため、おおのずと、事業部長はテーマの継続的創出に大きな関心をもち、そのため、部下にもテーマ創出を促進すべく様々な局面で強い働き掛けをし、部下はそのようなプレッシャーの下で仕事をすることになります。3Mでは自由闊達なイノベーション創出の仕組みばかりに目が向けられますが、現実にはそれらアメとセットで、悪く言えばムチが用意されていて、このムチにより3Mの社員は、新しいテーマ創出に駆り立てられるという面もあるのです。

4.テーマ創出の時間的余裕を与える

 それでも、既に議論したように、『緊急度』が低いテーマ創出には、なかなか時間は投入されません。このような問題解消の方法として有名なのが、3Mの15%ルールです。研究開発の担当者は自分の時間の15%までを、自分の関心のあるテーマに投入してよいというルールです。このルールは世界中の様々な企業で導入され、アップルでも20%ルールが設けられていますし、日本企業でも同じようなルールを導入する企業は多いようです。このような時間的余裕をスラックリソースと言い、イノベーションについての様々な研究から、イノベーションを起こすための重要な要件になっています。

5.時間的余裕をテーマに振り向ける仕組みの導入

 しかし、多くの企業で、この15%ルールは機能していません。なぜなら、既存の仕事が忙しくて15%もの時間(週5日の内、ほぼ1日分に相当)を、それ以外に投入するということは、仮に時間的余裕を与えられても、どうしても心理的に既存の業務に関心が向けられ、与えられた時間を、既存業務につかってしまうということです。

 この問題をうまく解決している例が、ヤフーです。ヤフーではたとえば金曜日一日を部門全員で、新テーマ創出に充てるということをしています。部門全体でその活動を行いますので、他の仕事はできません。そのため、皆が新テーマ創出活動を一斉に行います。ヤフーの場合には、製品がソフトウェアですので、実際に短時間でイメージやプロトタイプまで作成してしまい、最後にはそれらを利用して、皆の前でプレゼンテーションを行います。

 物理的なもの作るメーカーにおいても、製品イメージが湧く簡単なモックアップを適当な材料で作るとか、粗いレベルでも仮想カタログを作る等は、比較的容易にできることですので、みなさんの会社でもこのような工夫をしてみてはどうでしょうか?

6.革新的テーマ創出に経営陣が関心があることを継続的に社員示す

 以上のような活動をスタートし継続することで、経営陣から社員に、革新的テーマ創出を本気で考えていることをメッセージとして伝えることができます。イノベーションを重視するという発言は多くの企業の経営陣の口から発せられていますが、イノベーションをどう起こすかの具体的な施策にまで落とされておらず、毎年年初には同じようなメッセージが繰り返し伝えられるだけという企業は多いものです。上のような、具体的な施策を経営陣として強力に推進することは、経営陣の意思を明確に示すという意味で大変重要ではないかと思います。また継続性が重要であり、忍耐強く活動を続け、また仮にうまく機能しなくても活動を中止するのではなく、施策の方向性は正しいのですから、それを信じ改善を重ねていくという姿勢が必要です。

(浪江一公)