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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第71回: 「顧客へのコンサルティングにより顧客を深く知る」

(2013年12月25日)

 

セミナー情報

 

本日は顧客を深く知るための深度軸の3つ目として、顧客のコンサルティングによる効果の議論をしていきます。

●顧客へのコンサルティグで見落とされている重要な効果

しばらく前から単に製品だけを売るのではなく、その顧客特有の課題に合わせてソリューションを提供するために、コンサルティングを一緒に提供するという考え方が普及するようになりました(残念ながら現実にうまく展開している例は少ないのですが)。製品だけではなかなか他社との差別化が難しい中にあり、また自社の顧客への提供価値を高めるために、大変有効な方法です。

しかし、コンサルティグには、それだけではなく多くの企業で見落とされている重要な効果があります。それは、顧客へのコンサルティングを通じて、顧客を深く知ることができるということです。

コンサルティングを顧客に提供するためには、目の前の顧客のことを知ることは当然ながら、それだけで顧客に適切なコンサルティングができるわけではありません。予め、様々な顧客の状況に合わせて適切なコンサルティングを提供するために、解決のための基本要素である様々な道具が準備され、またその道具の組み合わせについて熟知している必要があります。

そのような道具や知見はどこから来るかというと、それまでの様々な顧客を対象としたコンサルティングの経験や知識の蓄積に基づき生み出されるものです。つまり顧客へのコンサルティングの提供の場は、顧客に最適な価値を提供する場であると同時に、今後のソリューション提供のために顧客について学ぶ極めて重要な場でもあるのです。

ここで重要なことが2点がります。一つは、「目の前のその顧客」について学ぶだけでなく、そのような活動を続けることで「顧客の集合体」としての市場について学ぶことです。目の前の顧客は市場全体から言うと、特異なニーズを持つ顧客かもしれません。重要なのは、目の前の顧客もさることながら、市場を俯瞰してその市場全体の最大公約数や最小公倍数はどのようなものなのかを知ることです。

それからもう一点が、顧客へのコンサルティングを通じて、顧客を五感で理解することです。誰か他人からの伝聞やレポートを通じてではなく、顧客に直接触れ、五感を持って顧客を「感じる」ことです。この経験は今後のテーマ創出にとって極めて貴重な経験です。なぜなら、記憶している情報量が多ければ多いほどアイデア創出の可能性が高まる一方で、人間が記憶している情報は文字や言葉になっている形式知よりも、言葉や文字では言い表せない五感で捉えた暗黙知の情報が圧倒的に多いからです。

●キーエンスの例

このようなことを明確に意識して、コンサルティグの提供を行なっている企業は少ないのではないかと思いますが、この点を十分理解し、製品開発に活かしている例にキーエンスがあります。

キーエンスは、コンサルティング営業を極めて重視しています(キーエンスの場合は技術のバックグラウンドを持つ営業担当者がコンサルティングを行います)。それは上でも述べたように、コンサルティングの場は、顧客に最適な価値を提供すると同時に、まさに顧客を知る重要な場であるからですが、同社の場合にはむしろ後者をより重視しています。

キーエンスは、顧客の実際の使用環境の中で自社製品のデモを行うことを良く行ないます。なぜなら、デモにより、顧客に実際の使用環境下において自社の製品のよさを納得いただけることに加え、キーエンスの担当者は、自社の製品が顧客の現場で使われる状況を実際に観察することで、顧客の使用環境やニーズを深く理解することができるからです。また、作業時間等定量的なデータも入手することができるかもしれません。

キーエンスの担当者はこのような経験を通じ、五感で顧客を理解し、同時に定量的に顧客を理解し、そしてこのような経験を多数の顧客で経験することで、競合他社や顧客ですら経験のできない様々な市場についての情報を蓄積することができます。ちなみに、キーエンスはこの活動のために、あえて代理店を使わない販売形態である直販を創業以来採用しています。

●顧客コンサルティングに向けての周到な準備

しかし、コンサルティングを効果的に実行するためには周到な準備が必要です。具体的には、以下のような体制を整える必要があります。

○コンサルティグを通じての顧客提供価値拡大の好循環
まず、コンサルティグ提供の大きなフレームワークとして、「顧客・市場の知識獲得→社内での共有→新しい製品・サービス・提案内容の創出→顧客の提供値拡大」の組織横断的な好循環の仕組みを社内に作る必要があります。この基本的なフレームワークにより、継続的に顧客への提供価値を向上させることができます。

その上で、以下のような好循環の輪を構成する個別の機能の強化を図ります。

○顧客の理解を加速するための道具立て
キーエンスが行なっているように、顧客の現場で製品のデモを行なうといった、顧客を知る機会を作るような道具立てが必要です。キーエンスはデモのほかにも、デモ機を顧客に貸して使ってもらうということもしています。その場合必ずしも顧客の現場に立ち会うことができなくても、顧客が実際に使ってみた結果について顧客からフィードバックを得ることができますし、そのフィードバックを受ける過程で顧客に対し効果的な質問をする機会を得ることで、より顧客を深く理解することができます。

○顧客についての知識を社内で共有し新たなアイデアを創出する仕組み
営業マンは1人ではありません。キーエンスの例では、日本中、世界中で同じ製品を売っている営業マンは何十人、何百人といます。彼ら1人1人が上のような活動を行っている訳で、経験する内容も様々です。そのような多様な数多くの顧客についての経験を組織として共有し、市場全体を俯瞰し、その中から新たなテーマについてのアイデアを生み出すと言う活動は極めて重要です。

○各コンサルタントの能力の向上
各コンサルタントがこのような環境に身を置くことで、日々顧客の知識拡大を含めた能力の向上が実現できるようになりますが、それだけではなく、より主体的にそれまで得られ、組織で共有している知見に基づき行なうコンサルタントの教育も必要となります。

 

もちろん各社組織全体で役割分担を決める必要がありますが、以上のようにコンサルタントの役割を技術者や研究者が行なうことで、顧客を本当に深く理解することができ、それに基づき彼ら自身が革新的なテーマを創出することができるようになります。

(浪江一公)