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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第61回: 「マクロ環境分析」

(2013年9月30日)

 

セミナー情報

 

前回は市場の先を読む「時間軸」での3つ目の視点、「顧顧客の先進部門とのコンタクト」ついて議論しました。今回は4つ目の視点「マクロ環境分析」を議論します。

●「マクロ環境分析」の意義
市場の将来を予測することは、現実には不可能です。しかし、現実には複数のシナリオとして将来を想定し、今からその中の機会を活用し、脅威に備えるということは可能です。なぜなら、市場に大きな影響を与える因子(マクロ環境因子)は過去の経験や想像力をたくましくしての想定から抽出することは可能です。またそれぞれの因子毎に将来それぞれがどう展開していくのかについては、大きくは無限のオプションがあるわけではなく数種類の限定されたシナリオに絞ることができるからです。それら複数のシナリオ(現実には因子の数ごとの複数のシナリオの組合せ)の発生を前提に、市場の将来については複数のシナリオとして捉え、そのシナリオ毎に事業における機会や脅威を考えることはできます(ただし、一つのシナリオに絞ることはできません)。

福島の原発事故については当初、東京電力などは「想定外」という言い訳がありましたが、原子力発電所の安全の前提となる因子は既に明確になっており、その因子毎に長期にどのようなシナリオが起こる可能性があるかについて順序立てて丁寧に考えれば、今回のような事故が起こる可能性もあるという結論に結びついたはずです(具体的には、大きな津波が原子力発電所に大きな影響を与えるということと、大きな津波が起こること)。

●マクロ環境分析のステップ
それではマクロ環境分析はどのようなステップで行えばよいのでしょうか?

○対象の事業の定義
まずどの事業についてマクロ環境分析を行うかを明確にしなければなりません。チョコレートと工作機械では、当然マクロ環境分析の内容は大きく異なります。

○対象市場の定義
マクロ環境分析はある特定の市場を対象にして行うのですから、当然その市場を定義する必要があります。例えばプリンター事業においては、消費者、一般企業と大きく対象市場が異なりますし、されにそれら市場をもう少し分割して対象の市場を定義する必要があるかもしれません。

○その市場における対象事業に影響を与える因子を抽出し構造化する
ここまではマクロ環境分析の前提・準備の部分です。ここからが中核の部分です。対象の市場では様々なことが起こっています。その中から当該事業に大きな影響をおよぼす影響因子を抽出する必要があります。そして大きな影響を与える因子だけでも、それらは互いに因果関係や並列関係があり様々なレベルで定義することができますので(例えば地球温暖化は、エネルギー消費量、エネルギー技術の発展、各国の環境政策などに影響される)、単に因子の項目だけではなく、それぞれの因子間の関係を表した構造的な図として全体を捉えることが必要となります。

因子の抽出に関しては、PEST(Political、Economic、Societal、Technological)、PESTEL(PESTに加えEnvironmentalおよびLegal)、STEBNPDILE(PESTELに加えBusiness methods、Natural resources、Demographic、International)等の視点が提供されていますが、これらの発想の切り口として参考にすることができます。しかし、これらの視点は必ずしも網羅的ではなく他にも重要な視点があるかもしれませんので、じっくり自分達の頭で考えることを大事にしてください。

○因子ごとの可能性のある複数のシナリオの想定
以上の因子の関係を表して構造図の中で、因子の塊ごとに、その因子がある時間軸(5年、10年という長期)の中で、どう変わっていくかを考えます。ここでは、様々な公表データや専門家の意見を参考にし、そして自分の頭でじっくり考える、複数の多様な人材の間で議論するということで、その因子毎のシナリオを考えてみます。

○対象事業への影響・意味合い
以上の因子毎のシナリオを受けて、今度は全体のシナリオを想定し、それが今後その事業にはどのような影響があるのか、意味合いは何なのかを考えます。

●マクロ環境分析のアウトプット
このように、マクロ環境分析から、対象とする事業・市場における機会や脅威を想定することができ、その機会の活用や脅威の解消の面から、テーマアイデアを創出することができます。

●対象の事業が存在しない場合の考え方
ここまでの議論を読んで、これは既に事業を展開していて対象の事業の定義ができる場合に可能なことで、新しい事業をゼロから創出する場合には、そもそも事業や市場が明確ではない中で、そこへの影響を与える因子を抽出することはできないという点についてお気づきかもしません。

○自社の事業ドメインが決定されている場合
既に事業ドメインが明確になっている場合には、その事業ドメインの中の既に存在している自社もしくは世の中の事業を一つもしくは複数選び、その事業を前提に考えてみます。また対象市場については、その事業の中で対象となる市場をできるだけ網羅的に考え分析するのが良いと思います。

○自社事業ドメインが決定されていない場合
この場合は、市場を決めないとマクロ環境分析はできません。従って、技術ベースでのアイデア発想等なんらかの対象市場の仮説に基づき、対象市場の当たりをつけることが前提となります。

●一度やっておくと後は楽になる
マクロ環境分析は、最初にやる場合は大変かもしれません。しかし、この活動を継続的に行うことで、作業は相当に楽になります。なぜなら、以前の分析からその市場について相当のことが既に分かっており、内容を改善していけばよいのですから。ただし、毎回の分析には常に新しい何かを求める姿勢が欠かせません。つまり、毎回、前回の内容を批判的な視点から見直すということが求められます。

次回はこのマクロ環境分析をより体系的に行うシナリオプラニングについて議論をします。

(浪江一公)