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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第39回:ゲートの運営(その32):ゲートミーティングの運営(2)
「テーマの合否のハードル点をどう考えるか?」

(2013年4月30日)

 

セミナー情報

 

今回は、ゲートミーティングでテーマの評価点付けを行なった後、それを承認するか中止するかを決める判断基準となるハードル点をどう考えるかについて議論したいと思います。

■ハードル点?足きり点?合格最低点?
まず名前ですが、ハードル点、足きり点、合格最低点などが考えられます。足きり点や合格最低点では、テーマを中止するのが目的であるとの響きがあります。承認されるには高いハードルを越えなければならず、そこに向かって挑戦して欲しいという意味をこめて、ハードル点が良いように思えます。ステージゲート法導入には懐疑的な社員や経営陣は言葉にも敏感です。このような点にも注意しましょう。

■ハードル点を決めない場合
○総合的に判断をして決める
そもそもハードル点を決めるべきでしょうか?ステージゲート法を利用している企業の中でも多くの企業が、ハードル点を決めずにテーマの合否の決定をしています。これら企業は、各評価項目毎の点数の分布、その評価項目の特徴(絶対基準か期待基準かなど)、また今後の評価点向上の可能性などを見て、総合的な判断に基づき意思決定を行なっています。

ハードル点を決めないのなら、何のために評価項目毎の評価点付けを行なうのかについて疑問をもたれるかもしれません。しかし、評価項目毎に定量的な点数を付けることだけでも、評価対象テーマについて多面的に、また良い点、悪い点をビジュアル化することができます。また、ゲートキーパーによる投票で評価点付けを行なう場合には、ゲートキーパー間の評価の相異を明示することができます。これにより、合否の意思決定の質がそうでない場合に比べ、格段に向上します。

私は、そもそもテーマの合否判断は高度な意思決定であるので、必ずしもハードル点というものを決めずにゲートキーパー間による議論に基づき総合的な判断で決定するということでも良いと考えています。

○テーマ間の相対的な評価合計点と予算枠・人員枠との比較で決める
もう1つのハードル点を決めない場合が、複数のテーマの評価合計点を相対的に比較し優先順位付けをし、予算がある範囲内で優先順位が高い順に承認するという方法です。但しこの方法では、予算がたくさんあり、テーマが少ない場合は、評価合計点が低いテーマも承認されてしまうという問題があります。やはり絶対的な評価は、重要であるので必要です。

■ハードル点を決める難しさ

テーマの合否という重要な意思決定をする上での合理的な点数を決めることは、現実的には難しいものです。理想的には、過去のテーマ毎の評価合計点とその後のそのプロジェクトの成功の相関関係に基づき成功したテーマのゲート毎の評価合計点を参考にハードル点を決めることです。しかし、現実的にそのようなデータを持つ企業は少ないですし、そもそもステージゲート法を始めて使う企業にとっては、そのようなデータはありません。

■ハードル点をどう決めるべきか?

ステージゲート法をはじめて導入する企業のように、過去の成功したテーマとテーマの評価合計点の相関関係を分析するようなデータがない場合はどうしたら良いのでしょうか?

1つは、中間点(正確には中間点×評価項目数)をハードル点とするということがあります。ここで言う中間点は、評価点の真ん中の点数を言います。1点から5点まで5点満点で評価点付けをするなら、3点が中間点です。1点から10点まで10点満点で評価点付けをするなら、6点です。少なくとも中間点はクリアしていなければならないというのは、それなりに説得力があります。点数は1点から始まりますのので、中間点は、2.5点(5点満点の場合)や5点(10点満点の場合)ではない点に注意しましょう。

2つ目は、投入可能な全体予算とテーマ数の需給関係により、予算が少なくテーマ数が多ければ、より厳しくし、中間点に何点かプラスするという方法が考えられます。現実的には6.5点、7点、どんなに高くても7.5点といったところではないかと思います。

企業によっては、初期のゲートのハードル点は低く、後に行くほどハードル点を高くするということをしている企業もあります。初期には、不確実性ゆえに、評価を適正に行なう情報が少ないので、本来筋が良いテーマを落してしまわないようにするために初期のハードル点を低く抑えます。中盤からは既に相当の判断情報が集められているはずですので(ステージゲート法の重要な特徴であるフロントローディングにより)、本来超えるべきハードル点に基づき意思決定をするというものです。

■ステージゲート法は科学ではない

ハードル点設定に当っては重要な点を理解しておく必要があります。誤解を恐れずに言えば、革新的なテーマを対象とする場合、それを取り巻く複雑な状況の中で、完璧に意思決定を代替できるようなアルゴリズムを作ることは不可能です。ステージゲート法は意思決定の「支援」の仕組みであり、意思決定を「代替」するアルゴリズムではありません。ハードル点に完璧を求めてはなりません。ステージゲート法は科学ではありません。

多少論拠に曖昧なところがあっても、ハードル点を決めることで、意思決定が効率的に行なえるようになります。また上でも述べたようにハードル点を設定しなくても、意思決定の質は大きく向上します。従って、ハードル点が明確に決められないという理由で、ステージゲート法の導入を見送ることは適切ではありません。