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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第37回:ゲートの運営(その30):事業評価(25)
「生産財の意味的価値」

(2013年4月15日)

 

セミナー情報

 

前回は消費財の意味的価値を議論しました。今回は生産財の意味的価値について議論します。

■生産財の意味的価値とは?
意味的価値とは、顧客がその製品を買う本来的な目的を超えて、顧客に提供する価値です。前回の消費財の議論の中では、iPhoneの例をあげ、単に携帯電話、インターネット、メール、SNSの利用という機能的価値を超えて、他人からクールに見られたいや、自分自身が使って楽しいといったものが意味的価値だという話をしました。

それでは、生産財における意味的価値とは何でしょうか?生産財には合目的性(経済的価値の追求)という特徴がありますので、生産財の顧客は他社からクールに見られたいや使っていて楽しいというニーズにはあまりありません。やはりあくまで経済的価値が中心です。

このような生産財の意味的価値とは、顧客が求める自社の製品に含まれた本来的な機能に追加された何かしらの工夫や、追加的に提供されるサービス(情報、コンサルテーション、保守など)により、顧客のコストを低減し、顧客の製品自体の価値が向上するなどのことを言います。

実は既にこの議論は第18回(2012年11月26日)から第20回(12月10日)のあたりでCUPOSモデルという名前で紹介しています。ただ、詳細の議論は別途行うという話で終わっており、また、意味的価値という視点からの議論ではありませんでした。また、その当時はこのCUPOSというモデル名にしていましたが、多少間が抜けている名前でしたし、またその後、内容については多少変更を加え、現在はCAVESモデルという名前に変えています。

以前の説明と重複しますが、ここで生産財の意味的価値の説明としてこのCAVESモデルを説明したいと思います。

■生産財の意味的価値モデル:CAVES
CAVESはCost、Anxiety、Value、Empowerment、Social valueの頭文字をとったものです。一つ一つ説明します。

○Cost(顧客のコスト低減)
これは顧客の全体コスト構造を捉えて、全体コストの視点から顧客のコスト低減を実現するというものです。例えば、電車のパンタグラフを製造している東洋電機は顧客である電鉄会社に、従来の金属製のパンタグラフに代え、磨耗しやすい炭素繊維製のパンタグラフを提案し、顧客の保線コストとパンタグラフコストを合わせた全体コストを低減することに成功しました。加えて、パンタグラフは磨耗し易いので購入量は増え、東洋電機の売上は増加します。

○Anxiety(顧客の懸念払拭)
顧客は自社の製品やその周辺には様々な懸念やリスクを抱えています。その懸念やリスクを低減することで、顧客は自社の提供物に対し、価値を感じてくれます。例えば、自社製品よりずっと安い中国製の製品に対して、納期の管理が甘い、対応が遅いといった懸念を感じている購買関係者であれば、製品自体の価格は高くても、そのような懸念を生まない自社から製品を購入してくれます。米国のことわざに「IBMから買えばクビにならない」というものがあります。IBM製品は他社製品より高いのですが、製品、サービス、仕事の進め方全般にわたり高い信頼性があるという認識が社内で共有されていて、高くてもIBMの製品を買っておけば、仮に何かトラブルが発生しても良い訳ができ、クビにはならないという意味です。ここでのポイントは、会社ではなく、「自分」が大丈夫という意味です。安いものを買って失敗したら、自分の責任を問われかねないという懸念があり、そのため高くてもIBM製品を買っておきたいと購買の決定者や関与者は考えるものです。

○Value(顧客自身の製品・サービスの価値向上)
上のCostおよびAnxietyは顧客のコスト・リスクサイドの議論ですが、Valueは顧客自身の製品やサービスの価値(Value)の向上に自社が貢献するというものです。例えば、シマノは、顧客である自転車メーカーに自社の部品を供給することで、顧客自身の製品である自転車の価値を向上させることに成功しています。またゴアテックスは、ゴアテックスブランドの付いたウインドパーカー(顧客製品)の価値を高めることに貢献しています。

○Empowerment(顧客の能力強化)
「中長期的に会社を良くし、競争力を高めるには人づくりしかない。だから、経営陣や役員は、人づくりのために時間の三~四割を使う必要がある。」(「ホンダ イノベーションの真髄」小林三郎著) これはホンダでエアバッグを開発した小林三郎さんの本からの引用ですが、いずれの企業も自社の能力・企業体質強化への関心は高いものです。従って、自社が顧客のこの部分に貢献できれば、顧客は価値を見出してくれます。例えば、コマツは建機の教習所を自社で展開し、顧客の建機オペレーターの育成に貢献していますし、IBMでは伊豆に研修センターを持ち顧客の経営陣の教育を提供しています。

私はこのEmpowermentを広く捉え、例えば、一度に現金で設備が買えなくても、ローンのサービスを提供し、顧客が自社製品を買い易くし、その結果顧客の能力を向上させ、収入を上げることができるようになる事なども含めて考えています。

○Social value(顧客の社会的価値の向上)
これは、顧客の社会における受容性の向上に貢献することで創出する価値です。実はこの要素は、上で生産財ではほとんど無いと言った部分に相当するのですが、やはりその部分は含めるべきと考えています。例えば、携帯電話の基地局用アンテナメーカーである日本電業工作は、景観に配慮した基地局アンテナを顧客である携帯電話会社に提案するといったことをしています。それにより顧客は、周辺の景観に悪影響を与えることなくサービス地域を拡大することができます。