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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第25回:ゲートの運営(その18):事業評価(13)
「自社の将来の強みで評価する」

(2013年1月21日)

 

セミナー情報

 

 前回は事業ドメインの決定の方法について議論しました。今回は自社の強みの活用について考えてみたいと思います。

■自社の強みを評価項目とする問題点:自社の現状の強みへの強い拘泥

 従来から、ステージゲート法や新規事業テーマの評価項目に、自社の強みとの整合性は定番の評価項目として考えられてきました。一見何の問題もないように思えるかもしれません。論理的に、自社の強みが活用できれば、成功確率は高まりますので。

 しかし、実は私はこの点に違和感を持ちます。特に、ステージゲートにおいては革新的な製品アイデアを創出することが大きな目的の一つですので、なおさらそのように感じます。

 理由は、既存の強みの範囲にとどまっていては、革新的な製品アイデアに結び付くような「アウトオブザボックス」すなわち、型にはまらない斬新なアイデアが出難いことがあります。

 それでは、自社の強みの活用と革新的なアイデア創出とのトレードオフをどう扱ったらよいのでしょうか?

■自社の将来の強みの活用を評価項目に入れる

 答えは、自社の将来の強み、すなわち今後強みとしたい能力や資産に基づきテーマを評価するということです。

 その為には、戦略やビジョンの中で、自社が将来強みとしたい能力や資産(無形・有形)を明らかにする必要があります。

■技術分野の将来の強み:コア技術

 技術の分野の強みを表す言葉に、コア技術やプラットフォーム技術があります。それらは、自社が将来の強化の対象という意味を含んだ中核とする技術のことで、つまり自社の「戦略」技術として定義したものです。

 多くの企業の方が、そのような視点で既にコア技術を設定しているというかもしれません。しかし良く見てみると、「既に自社の強みであると認識している」技術を、将来にわたっても強化し続けるというレベルです。それは重要ではありますが、それに加えて、仮に今は強くなくても将来に向けて強化を行なう「新な技術」を積極的にコア技術に設定するという展開が必要です。

■コア技術戦略の実行:3Mの例

 コア技術の活用の有名な例に、約40のプラットフォーム技術を設定している米国の3Mがあります。3Mは、これらのプラットフォーム技術を基盤に年間500以上の商品を展開しています。また、同社ではこれら技術から商品を創出するという一方通行ではなく、これら多数の商品の展開を通じて、それぞれのプラットフォーム技術を強化するという双方向の考え方をしています。仮に展開商品において失敗しても、それはそれで技術強化に貢献するということも期待しています。

 3Mはステージゲート法を積極的に活用している企業です。当然のごとく、ゲートでの評価項目にはプラットフォームの活用という項目がある筈です。

 3Mでは、これらのプラットフォーム技術を使わないで成功した商品は評価されません。つまり、社員にこれらプラットフォーム技術を使っての商品化を強いているわけです。これほど、3Mはこのプラットフォーム戦略を重視しています。

■コア技術の設定基準

 それではコア技術はどのような基準で設定するのでしょうか?

1.独自性
まずどの企業も持っているようなありきたりの技術ではないことです。

2.価値の創出
つまらない技術ではどうしようもありません。その技術が大きな顧客価値を創出するものでなければなりません。

3.応用範囲の広さ
コア技術一つ一つは、複数の要素技術から構成されるある程度の幅を持って定義されます。構成要素である要素技術を、その技術を使っての商品化を積極的に進めることで強化しながら、一方で、新な他の要素技術も継続的に追加し、同技術領域全体を強化するのがコア技術の考え方です。

 ここで重要になるのが、繰り返しになりますが、現在の自社の強みだけではないことです。コア技術は、将来にわたり強化し、将来の自社の強みとする技術であることです。

参考文献
「MOT[技術経営]入門」延岡健太郎著(日本経済新聞社)