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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第1回:なぜ今ステージゲート法なのか?

■ステージゲート法とは何か?
既に一部大手日本企業の研究開発部門を中心に導入が進んでおり、ご存知の方も多いと思いますが、ステージゲート法とは、技術開発や製品開発テーマをアイデアの創出から市場導入、さらに製品の製造・販売の中止まで、技術や製品の寿命全体をマネジメントする手法です。(但し、重点は、アイデア創出から市場導入までにあります。)

「ステージゲート」という名前がつけられている理由は、全体のプロセスを複数の活動ステージに分割し、ステージ間にゲート(関門)を設け、ゲートでの評価にパスしたプロジェクトのみを次のステージへ進むことを許可するという仕組みとなっているからです。

ほとんどの企業で、程度の差はあれ、実際にはこのようなプロジェクトの進め方をとっていると思います。しかし、外見は同じ、類似していても、ステージゲートは単にゲートとステージがあるというだけでなく、長い歴史を通じて(ステージゲート法は米国を中心に20年以上の歴史があります)考えられてきた工夫が組み込まれています。また今日でもまだステージゲート法は進化しています。

 

■ステージゲート法の特徴
ステージゲートの特徴として、以下があります。

・ 当然存在する市場や技術開発の不確実性・曖昧性を積極的に前提とし、初期に潰されることが多いイノベーティブなアイデアを救い上げ、同時に市場・顧客との間の相互作用により、不確実性・曖昧性を効果的に低減すること

・ 初期の段階で市場や技術の実現性を徹底して調査し、課題や事実をできるだけ早くつかみ、仮説でもよいので展開計画を作ることで、後でのやり直し、無駄を極力省くこと

・ 事前にステージとゲートに世界のベストプラクティスを組み込んで設計し(全体のプロセスの構造および各ステージおよびゲートで、誰が、何を、どのように)、その上で厳格に運用すること

・ 社内(関係部門および経営陣)および社外(顧客等)の英知を集め、アイデア・製品コンセプトの進化、計画作りおよびプロジェクト評価を行うこと

・ 単一のプロジェクトの管理のみならず、自社のプロジェクト・ポートフォリオ全体をマネイジすること

・ 製品開発・技術開発とマーケティング・事業戦略・技術戦略を効果的に統合していること

・ それによって、限られた経営資源(人と金)で、大きなヒットを生む製品(サービス)の効果的・効率的かつ継続的・体系的創出が期待できること

しかし、これらの特徴(ステージゲート法の本質)は、必ずしも既にステージゲート法を導入している企業においても正しく理解されておらず、単なる個別プロジェクトの管理ツールとして利用されている例が多く、残念ながらステージゲート法の真価が発揮されていません。

 

■日本企業にとってのステージゲート法導入の意味:
「技術で勝って事業で負ける」日本企業への処方箋

最近(2012年5月時点)、経済誌やビジネス誌をにぎわしている話題に、日本の家電企業の大きな赤字と経営陣の交代、それに関連して特にシャープの液晶事業の台湾の鴻海による救済があります。後者について言うと、シャープの技術は最先端を行っていながら、技術力が必ずしも高くはないEMSの軍門に下るという論調です。一昨年あたりから、携帯電話のガラパゴス化から端を発し、「技術で勝って事業で負ける」日本企業と言われてきていますが、まさにシャープの例はその象徴的な例といえるでしょう。

この「技術で勝って事業で負ける」日本企業への重要な処方箋の一つがステージゲート法です。この「技術で勝って事業で負ける」に対し、日本企業はマーケティング力を強化しなければならないという主張があり、それは極めて正しいのですが、マーケティングと言ってもその範囲は広く、具体的にどうマーケティングを使うかという議論には掘り下げられてきませんでした。従って、特にマーケティングが弱いB2B企業にとっては、一体どこから手をつけたら良いのかが、わからないというのが現状ではないでしょうか?

このような状況に対し、ステージゲート法とは、製品開発、技術開発とマーケティング、更には事業・技術戦略を巧く統合し、かつ技術開発・製品開発の全体プロセスの展開方法を効果的にカバーした方法論であり、加えて各ステージおよび各ゲートの具体的方策まで提示されているものです。(但し、本質を押さえながらも、各企業の特徴やその業界に応じてフレキシブルに考えるというのが、ステージゲート法です。)もしシャープが正統ステージゲート法を厳格に運用していたら、結果は変わったかもしれないという気はします。(内情を知らずにあまり勝手なことは言えませんが。)

 

■ステージゲート法の歴史
ステージゲート法は、1960年代にNASAが開発した、フェーズ・レビューを源流にしていますが、その後1980年代に、マーケティング部分を組み込んで作った方法論で、当時「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われ日の出の勢いで世界市場に展開していた日本の製造業のDRをも参考にしたものと言われています。現在米国では製造業の半分以上がステージゲート法を採用しているとの統計もあり、スリーエム、ジョンソンアンドジョンソン、デュポン、P&G等、世界的な企業が本手法を活用し、実際に成功しています。

日本でも、1990年代に日本に最初に導入され(旭化成が最初)、その後化学、家電等日本でも100社以上(旭化成、東レ、昭和電工、旭硝子、パナソニック、ソニー、TDK、富士フイルム等)が導入されていると言われています。

但し、ステージゲート法は、企業規模、業種(メーカー以外でも利用可能)、国籍に関わらず、効果を発揮する手法であり、事実米国では、広く活用されています。

 

次回は、ステージゲート法の展開上の課題について概観したいと思います。