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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第177回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋(24): KETICモデル-知識:コア技術

(2018年3月12日)

 

セミナー情報

 

前回はKETICモデルの中の知識(Knowledge)の内、技術知識について議論をしました。その中で、3Mや村田製作所のイノベーションの実現に向けての仕組みとしての、社内での技術共有プログラムの話をしました。今回もこの議論を続けていきたいと思います。

●イノベーションに向けての技術の組織横断での活用の必然性:範囲の経済性

企業は起業直後は別にして、自社の成長に向けて、通常複数の製品や事業を生産したり、販売したりします。そのために、入手済の生産設備や構築済の販売チャネルや自社の顧客の間での信用(つまりブランド)を使って行います。それは、それぞれの製品を実現するための能力や資産を、個別に一から展開するより、既にあるものを使った方が、効率的に複数の製品を展開できるからです。そのような組織や企業が既に入手・構築済の能力や資産の活用の結果得られる経済性を、経済学の用語で範囲の経済性と言います。

企業の中においては、範囲の経済性という言葉はあまり耳にする言葉ではありませんが、経営の活動の中では、実際に広く実践されていることです。

しかし、その点技術はどうでしょうか?企業にとって技術も範囲の経済性を生む重要な資産です。そのため、自社の技術を使って新しい製品や事業を構築したいというニーズには大きなものがあります。しかし現実には、企業においては、技術は個人の技術者や研究者に属人的に属していたり、せいぜい一部の部門内に閉じて利用されることも多いものです。つまり、創業間もないベンチャー企業とは違って、実績と組織を持つ企業においては、既に多額の資金を長年にわたり研究開発に投入することで、社内に様々な技術資源を保有していますが、十分にその範囲の経済性を実現できていないということです。

従って、技術の共有化は新たなイノベーションを起こす上で大変重要で、少なくとも技術を自社の成長の拠り所としている企業においては、可能であればやるべきものというレベルではなく、企業という組織体である以上、また限定された経営資源を使って最大のリターンを生み出すことを求められる企業においては、必ずやる必要があるというレベルの活動なのです。

●組織横断的に共有する技術の要件

しかし、社内には様々な技術があり、また一部の部門でしか使用しない技術もあり、更に技術の共有化にも、時間やエネルギーの投入が必要となります。そのため、全ての技術を組織横断的に共有化することは非効率です。従って、共有の対象となる技術は、組織横断的に活用ができ、またイノベーションの創出すなわち革新的な製品を創出することに大きく寄与する技術ということになります。

●コア技術とは?

多くの企業においては、技術は既に自社が対象とする市場に存在するニーズを満たすために必要となるものであり、技術を先に設定してそれを利用して製品を出すということは通常しません。

しかし、上でも述べたように、そもそも企業という組織体である以上、範囲の経済性を実現する必要があり、それにより最大のROIを実現するためには、常に範囲の経済性を考えて技術開発する必要があります。そのため、将来にわたり対象とする市場で潜在ニーズの可能性を広く考え、そのような潜在ニーズを充足するような技術という視点から、自社の開発対象の技術を考えていかなければなりません。もちろん潜在ニーズを探すこと自体が難しい作業であり、それを更に将来に向かって広く考えるということは、益々難しいものですが、社内の関係者の想像力を最大限に発揮して、そのような技術を見つけていかなければなりません。

そのような技術が今後とも自社が寄って立つための技術、すなわちコア技術となるものです。

(浪江一公)