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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第173回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋(20): 合理的思考の重要性と陥穽(その2)

(2018年1月15日)

 

セミナー情報

 

今回も前回に引き続き、合理的思考の重要性について議論をしていきたいと思います。

●人間は本当に合理性と非合理性を合わせ持つ生き物?
前回は「人間は合理性と非合理性を合わせ持つ生き物」であると、お話しましたが、実は今回のメルマガを考えている段階で、ふとこの点に疑問を感じるようになりました。むしろ「その非合理」を生み出している背景にも、「何等かの合理性」があるのではないかという疑問です。なぜなら、人間の非合理性は、程度においてばらつきはあるもののかなり共通的で、そうであればその背景にはその共通の理由、つまり合理性がある筈という考えに行き着いたからです。

●非合理性もある文脈では合理性に基づいている
感情的行動は、非合理性の典型と言えます。しかしその感情的行動もある文脈においては、合理性があるのではないかということです。例えば、人から非難をされると他人に反撃したくなったり、逆に落ち込むという感情は、自分自身がその環境でサバイバルするには必要ですし(反撃)、他人に非難をされるような大きな失敗をした場合には深く内省し二度と同じ失敗をおかさないようにするためには必要であるのではないかということです。

●合理性の三段階
そこで人間や組織の合理性には、発展の段階があるのではないかと考え、以下の三段階にまとめてみました。ここでは、最も進んだ三段階目がイノベーティブな組織と定義しています。それでは、それぞれの段階の合理性の文脈について議論したいと思います。

○第一段階:個人のサバイバルのための合理性
太古の時代の人間を考えてみてください。当時の人間が常にさらされていたと考えられる敵や猛獣からの攻撃や、崖からの転落などの危険を生き延びるには、一人一人が、その瞬間の危険を生き抜くための反応、ある意味衝動的・感情的反応ともいえる行動をしなければなりません。それが怒りに基づく敵に対するこちらからの攻撃や、恐怖の感情から生まれる危険からの逃避といったものです。これらの衝動的・感情的反応が、この文脈においては合理的であると言えます。

○第二段階:組織の「日々のサバイバル」のための合理性
しかし、より良く敵からの攻撃(企業で言えば、競合企業との競争)や厳しい自然環境(同、市場環境の変化)に対処して生きるには、皆で一緒になって組織として活動することが合理的です。そこでは他人との協調が求められ、時には意に沿わないことでも、組織の「日々のサバイバル」という共通の目的に向けて、妥協をして組織に協力するということが求められます。そのため、その組織の「日々のサバイバル」という目的達成に向かっての協調を乱す人間や、ことそのために必要な能力において劣っている人間は、怒りやいじめという感情的行動の対象となり、協調を強制されたり、排斥されたりします。組織の最大の目的が「日々のサバイバル」という文脈においては、組織に属している人間がそのような感情を持つことは、この段階ではある意味合理的と言えます。

○第三段階:組織の将来に亘っての繁栄
組織はそもそも、長い期間の間には大きな環境の不測の変化や事態にさらされるものですが、組織が長期に亘り、栄々として存在するには、これらの不測の環境、すなわち不確実性にうまく対処していかなければなりません。この不確実性に対処するためには、従来の思考や能力だけでは不十分です。なぜなら、これら能力や思考は従来の環境において最も必要とされるものであり、将来到来する異なる環境下では最適なものではないからです。しかし、問題はどのような思考や能力が必要かは、不確実性があるがゆえに現時点ではわからない点です。この文脈において合理的であるということは、多様な能力や思考を持つ人材を組織内におき、多様なチャレンジングな活動を行い、それゆえ必然である小さな失敗を重ねながら組織が早いスピードで学習するということです。

このような文脈においては、第二段階のようなマネジメント組織の思考・行動様式は、明確な誤りですが、これらは第二文脈においては「合理的」であったが故に大変強固なもので、このような思考や行動様式は第三段階では、合理性実現の大きな抵抗・阻害要因となります。

●多くの組織の現実
ほとんどの組織は、文脈第一段階と第二段階の間に位置していると思います。しかし、企業が将来に亘って繁栄するには第三段階を実現するように経営をしていかなければなりません。したがって、経営陣は各段階で求められる合理性の相違を明確に理解し、強い意志をもって新しい第三段階の合理性に向かって舵を切らなければなりません。

(浪江一公)