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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第162回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋(9):未知の市場ニーズと既知の技術的解決策

(2017年7月31日)

 

セミナー情報

 

今回はイノベーションのパターンの内、「3. 未知の市場ニーズと既存の技術的解決策」について、議論をしていきたいと思います。

●未知の市場ニーズなどはあるのか?

このイノベーションパターンの実現に関して出てくる懸念として、今対象としている事業において未知の市場ニーズなどはあるのかという点です。この懸念に対しては、以下の2点の理由から、常に未知の市場ニーズは存在すると断言できます。

まず一つ目ですが、現在の市場ニーズと20年後の市場ニーズが全く同じということは考えられません。どの製品分野においても、20年という時期が経過すれば、その製品は必ず変わっている筈です。すなわち、新しい市場ニーズに対する製品が生まれているということです。ということは、新しい市場ニーズも生まれているということです。20年先まで待つ必要はないのです。

2つ目に、顧客は常に新しいニーズを持つということがあります。顧客が企業であるB2B(Business to Business)製品に関しては、顧客である企業は常時市場環境、競争環境の変化にさらされています。このような環境変化の中で、企業が存続し続けるには、企業活動も環境に合わせて変えていかなければなりません。そうすると必ず新たな課題が発生します。この新たな課題は、新しい市場ニーズを生み出すのです。

顧客が最終の消費者であるB2C(Business to Consumer)製品では、顧客の欲望は止まることを知りません。一つの欲望が満たされると、次の欲望が生まれます。これが人間の欲望の本質です。人類の文明を発達させてきたのは、まさにこの人間の欲望の本質です。今後人類が生き続ける間、この本質は変わりません。したがって、B2C製品の場合も、未知の市場ニーズが枯渇することはありません。

●「既知の技術的解決策」の正確な意味

ここで、「既知の技術的解決策」について、ここで意味することについて、もう少し説明をしておきたいと思います。ここで言う「既知の技術的解決策」は、世の中を広く見れば、その市場ニーズを充足する技術が既に存在している、もしくは、比較的簡単な開発活動により、それが実現できるという状況を言うものとしています。つまり、未知の市場ニーズを見つけて、それを実現する手段を世の中広く探したら、見つかるという状況です。

ここでの重要なポイントが、技術は必ずしも自社内にあるものではなく、世の中全般に存在する技術ということです。

●市場ニーズを探す段階では、「既知の技術的解決策」があるかわからない

ところが、このタイプのイノベーションを起こそうとする場合の問題点は、市場ニーズを探すのは良いのですが、その時点では「既知の技術的解決策」があるかどうかはわからないという点です。未知の市場ニーズは上でも議論したように、無尽蔵にあるわけですので、その中から、技術的解決策がありそうなニーズを選び出す能力は重要となります。

●広い技術・科学分野を俯瞰する知識の必要性

そのために、イノベーションのアイデアを創出するために、市場ニーズを見つける作業に携わる人は、明確にはどのような技術がその市場ニーズを実現できるかを特定できなくても、その市場ニーズは技術的に解決可能なものなのかをある程度想定できる知識が重要となります。したがって、広い技術的知識を持った人が、市場ニーズを探すことが求められます。

(浪江一公)