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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第150回:オープンイノベーションの心理学(5):自分達の能力置換の直接的脅威

(2017年2月13日)

 

セミナー情報

 

今回は、オープンイノベーションに抵抗する心理として、研究者自身の能力の外部による置換の脅威について議論したいと思います。

●自分達の能力置換の直接的脅威

オープンイノベーションは、従来自社で行っていた研究開発活動の一部を外部で置換するものであり、社内の研究者にとっては、自信の存在価値を大きく損なう可能性のある脅威と映っても不思議はありません。オープンイノベーションが、これまで議論してきたように企業全体にとってどんな利益があろうと、個人的な脅威を及ぼすものについては、社員は敏感に反応します。

その昔英国で産業革命時代に、ラッダイトと呼ばれる労働者による彼らの仕事を奪う脅威のある機械を破壊するサボタージュ活動が頻繁に起こったといわれています。このラッダイトほどあからさまな活動ではありませんが、研究者の心の中には同じような強い拒否反応が起こるものです。この点についてマネジメントとしてしっかり対応を行わないと、オープンイノベーションは頓挫してしまいます。

●3つの対応策

この点については、以下の3つの対応が考えられます。

○企業としてのオープンイノベーション経営への転換のコミットメント

なんといっても、オープンイノベーションの経営における合理性をきちんと周知・説明した上で、経営陣がその経営に強くコミットする姿勢と意思を社内に明確に示す必要があります。つまり、どんな抵抗があろうと、不退転の意思も持って、抵抗があれば敢えてそれを排除することを含め、オープンイノベーションを追求するという強い姿勢を示すことです。社内でこの活動が単なる世の流行に基づく経営陣の気まぐれととられるようでは、オープンイノベーションへの経営の転換は成功しません。

○自社のコア技術の設定

外部から見境なく技術を導入するということでは、常に社員は不安を感じるようになります。このような状況を避けるためにも、社内で今後も継続的に戦略的に強化すべき技術分野とそうでない分野を明確に設定する必要があります。その結果、むしろ戦略的に強化すべき技術分野に携わっている研究者のモラールは、向上することになります。

○コア技術以外の研究者は「競争」ではなく「協創」推進者として位置付ける

それではそのコア技術以外の技術に携わっている技術者についてはどうするか?その中の多くの人材は、対象の技術分野を変更してもらうことです。優秀な研究者は、対象分野が変わっても、その分野で能力を発揮するものです。

更に、それ以外の研究者・技術者は、まさにオープンイノベーションで外部から導入する技術について深い知見を持っているので、導入する技術の評価において、彼ら、彼女らの知識はおおいに活用することができます。つまり、コア技術以外の研究者は「競争」ではなく「協創」推進者として位置付けるということです。

(浪江一公)