Top
> メルマガ:『価値づくり』の研究開発マネジメント

 

『価値づくり』の研究開発マネジメント

第139回:オープンイノベーションの経済学(その3):産業全体の成長に大きく貢献する『善』

(2016年9月12日)

 

セミナー情報

 

前々回は「範囲の経済性」を、前回は「比較優位の原理」の議論をしましたが、今回はその両者と企業がオープンイノベーションを追求する意味合いとの関係性を議論していきたいと思います。

●「範囲の経済性」のオープンイノベーションへの意味

「範囲の経済性」は、自社にある汎用的な能力を持てば、それを様々な顧客価値創出活動に利用することで、その活動を低コストで実現することができることを示しています。

しかし、自社のみでは顧客創出活動は限定されます。なぜなら、自社のみでは
1. 顧客価値創出機会に結び付く情報量が決定的に少ない
2. 自社1社では、その顧客価値を実現するための能力をワンセットで持っていない可能性が極めて高いためです。

そこで、オープンイノベーションを利用して広く他企業の持つ能力に目を向ければ、そのような顧客価値創出機会は大きく拡大する可能性があります。なぜなら、
1. 顧客価値創出機会に結び付く情報量が格段に増える
2. 自社で持っていない能力は他社により補完できる
からです。

●「比較優位の原則」のオープンイノベーションへの意味

「比較優位の原則」は、自国の得意な「製品」に特化して、他国と貿易を行えば、自社、他国ともにメリットがあることを示しています。しかし、ここで「国」を「企業」に、「製品」を企業が保有する「能力」に置き換えれば、「比較優位の原則」はまさにオープンイノベーションの効果そのものを言っていることになります。

●この2つの経済原則が意味するもの:オープンイノベーションは『善』

以上より、「範囲の経済性」は自社の能力を自社を超えて産業全体で活用すれば、自社のみならず産業全体で顧客価値を創出する機会が格段に増えることを示し、「比較優位の原則」は、その能力は、自社内で相対的に強い能力に特化することで、自社だけでなく産業全体にも効果を生み出すことを示しています。

つまり、オープンイノベーションとは、自社と産業全体の両者にメリットのある活動であるということができます。企業は「自社」の収益拡大のために、オープンイノベーションを進めているのですが、実はそのような活動が様々な企業によりあちこちで活発に行われることにより、産業全体も成長・拡大するという構造になっているのです。それは、自社のオープンイノベーション活動により産業全体の拡大に貢献すると、その対価として収益が得られるというようにも言えるかもしれません。したがって、オープンイノベーションは、産業全体にとって正しい道であり、単なる経営の世界での流行ではなく、そのメリットは経済の視点からも『善』と言えると思います。

ところが、『善』を追究する上でもう一つ重要な概念があります。それが「競争原理」です。次回は「オープンイノベーションの経済学」の次の概念として「競争原理」を議論します。

(浪江一公)