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『価値づくり』の研究開発マネジメント

第113回:「新たなコア技術確立のためのオープン・イノベーション(その2) 」

(2015年8月17日)

 

セミナー情報

 

今回は、オープン・イノベーションによる、自社にとっての新しいコア技術の具体的獲得法について、議論したいと思います。

オープン・イノベーションによる新コア技術獲得については、最初に核となる一部の要素技術を獲得し、その後自社またはその他補完的な技術を他のオープン・イノベーションで獲得する「点」の展開と、コア技術領域の数多くの技術を一気に「面」で獲得する2つの展開があり、以下に個別に議論をしていきたいと思います。

●「点」の展開:新しいコア技術の核となる一部の要素技術獲得のためのオープン・イノベーション

自社にコア技術として設定した技術が自社になければ(弱ければ)、外部から核となる技術を導入する、もしくは共同研究を行うという手段は現実的なものです。導入対象は、一般的にその技術は世の中的にも新しい技術であるので、大学や公的な研究機関などが対象となる例が多いと思います。

具体的な例としては東レの炭素繊維での大阪工業技術試験所からの技術導入、富士フイルムの再生医療における京都大学との共同研究などがあります。

しかし、大学や公的研究機関であれば、その目的は広く世の中に普及することであり、またより多くの資金を獲得したいと考えても不思議ではありませんので、その技術の価値が社会にとって大きければ大きい程、複数企業と提携を進めるということになります。

コア技術は今後自社のコアとなる戦略的な技術領域ですので、独自性や模倣困難性は当初から重要な要件とすべきであり、提携先がこのような複数の企業と提携する展開はできるだけ避けたいものです。また、大学や公的機関は基本的にビジネスとして取り組んでいる訳ではありませんので、当然のごとくビジネス展開を意図している企業にとっては、ビジネス展開上の様々な障害が想定されます。

加えて、ビジネスを展開するのであれば、その外部から獲得する技術に加え、その他の技術も必要となり、自社での研究開発もしくは他の提携先との活動も必要となります。

●「面」の展開:新コア技術を構成する数多くの要素技術を一気に獲得するM&Aによるオープン・イノベーション

それに対し、一度に数多くの要素技術を獲得する方法が、それら技術を持つ企業自体を獲得するM&Aです。まさに、前回紹介した富士フイルムのセルラー・ダイナミクス・インターナショナル(CDI)の買収がそれに当たります。富士フイルムは既に京都大学と一緒にiPS細胞に関する共同研究を行っていましたが、京都大学にとっては、富士フイルムは複数の企業の中の一部の企業に過ぎませんでした。また、京都大学はビジネスを目的として研究を行っているわけではありませんので、スピード感からは企業と相いれない部分も多かったと想定されます。

一方CDIはもともとは大学発(ウィスコンシン大学)とは言え、バイオベンチャーであり、そのスピード感は富士フイルムにとっては満足のできるものと思います。

もちろんCDIにしてもM&Aという手段ではなく、提携という形もあった訳ですが、「提携のようなまどろっこしい形ではなく、いっそのこと全部買えばいい」(古森会長 出所:日経ビジネス(2015年7月20日号))ということで、富士フイルムは同社を買収しました。ちなみに、買収金額は370億円と言われています。

富士フイルムのCDIの買収のように、上のような理由から、新たなコア技術の確立には、今後ますますM&Aは重要な手段となると思われます。

(浪江一公)