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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第102回:多様なソースから情報・知識を集める(その17)
情報・知識の『源』を多様化する(16):オープンイノベーション-ライトハウスカスタマーの例

(2015年3月16日)

 

セミナー情報

 

前回は、情報・知識を多様化するコンセプトとしてのオープンイノベーションのための情報発信先としてライトハウスカスタマーについて議論しました。今回も引き続きその議論をしたいと思います。

●ライトハウスカスタマーの事例

ライトハウスカスタマーについて、B2B製品とB2C製品での2つの事例を紹介したいと思います。

○B2B製品の事例:島津製作所の質量分析装置

以下はノーベル化学賞を受賞した島津製作所の田中耕一さんの「生涯最高の失敗」(朝日新聞社)からの引用ですが、その中に質量分析装置のライトハウスカスタマーが紹介されています。

「 国内では行き詰ってしまったため、海外にまで活動範囲を広げました。そのころは、海外のほうが私たちの成果に対する評価が高かったため、欧米の研究機関から、ひきあいがいくつも寄せられました。そのなかでも、米国のシティ・オブ・ホープ研究所にひとり、単に関心を持つだけでなく、真剣に購入を検討してくださった方がいらっしゃいました。免疫学者のテリー・D・リー先生です。先生は、研究の質の高さに定評があったのは当然ですが、まだ正式に製品となっていないような装置を世界で最初に購入し、その能力を引き出す技術とセンスで有名でした。」

島津製作所にとって、このテリー・D・リー先生が、まさにライトハウスカスタマーです。なにしろ「まだ正式に製品となっていないような装置を世界で最初に購入し、その能力を引き出す」ということまでやる顧客ですから。このテリー・D・リー先生は、普段から質量分析に関する技術や製品に関心を持ち、自らもその使い方を研究し、質量分析装置の世界中の関連企業や研究者の活動にアンテナを張って情報を集めていた筈です。

○B2C製品の事例:シマノの釣り具

次は、B2C製品の事例です。以下はシマノの釣り具についての日本経済新聞(2005年7月18日)の「私の履歴書 島野喜三」からの引用です。

「確か74年である。私は会議で堺の本社にいた。呼び出しがあり、「アメリカから妙な男たちがやって来た。釣り具のことで話があるというが、訛のある英語でよくわからない。来てほしい」と言う。小太りで髪を刈り込み、運動靴をはいた男が親玉格で、彼がルー・チルドレというバス釣りの名人だった。「バス釣り用の最高の両軸リールを作りたい。それができるのはシマノだ」

このころルアー釣りのリールでは、北欧に世界トップブランドメーカーがあり、「それに負けないものがほしい」と言う。いろんな人と話す中でシマノの名が挙がり、アメリカからわざわざ堺までやってきたようだった。アメリカには時折、こんな風に純粋に熱中する人がいる。すでにバス釣り用リールでは、米国市場を狙って開発を進めていたが、彼らとは協力することにした。」

このルー・チルドレという人物は、既に市場にある様々なリールを試すということまでや、それらのいずれにも満足できない強いニーズを持っている顧客です。ちなみに、このルー・チルドレの協力で作られたリールは、後に大ヒットすることになりました。

どの市場にも必ずと言って良いほど、このようなライトハウスカスタマーが存在しますので、まだ見ぬライトハウスカスタマーを対象に、自社から主体的に情報発信をするのです。そうすれば貴重な情報が集まります。

引き続き次回もこの議論を続けていきたいと思います。

(浪江一公)