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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第88回:多様なソースから情報・知識を集める(その3):情報・知識の『源』を多様化する(2)

(2014年8月18日)

 

セミナー情報

 

前回は、「多様なソースから情報・知識を集める」のSMPモデル中の「情報・知識の『源』を多様化する」(Source)について議論をしました。今回も前回に引き続き、この議論をしたいと思います。

■多様な情報源(その1):自部門内

それでは多様な情報源には、どのようなものがあるのでしょうか?今回は、自部門で多様な情報を活用する方法を考えます。

情報源に多様性を求める場合、一番身近なのが、自部門内で様々な情報を集めることです。身近にもかかわらず、意外と活用されていないのではないでしょうか?もちろん同じ企業や組織の中にいると、価値観や志向は似てきますので、多様性の度合いは低くなりますが、それでも社員は会社の中だけで生き、生活している訳ではありません。一人々々の考えや保有する情報は、相当異なっていると考えても良いと思います。

一方で、同じマネジャーの下の組織ですから、一つの指示の下、組織構成員は身近な範囲で活動を開始することができますので、情報共有化のコストは低く抑えることができます。

そのため、これらの組織構成員の間での情報の共有化の価値は、大きいと思います。

以下に、自部門内で得られる多様な情報を活用してテーマを創出する方法について、紹介をします。

○定期的に自部門内で他の担当社員を含めてテーマ創出セッションを開催する

一番一般的な方法が、定期的に他の担当の社員を含めて、自部門内でテーマ創出セッションを開催することです。自分のテーマでなくても、同じ部門内ですので、他の社員の活動内容を日ごろから聞く機会があり、いろいろ意見やアイデアを持っているものです。このような機会を活用しない手はありません。

また、他の社員の活動についての理解や関心が高まるという副次的効果もあります。

○少人数グループ単位でテーマ創出ノルマを与える

その中で、私は、少人数の社員の単位で、テーマ創出のノルマを与え、常にグループメンバーの間で自発的に情報交換が行われるような仕組みは有効ではないかと思います。通常のアイデアセッションなどでは、アイデア創出の場・時間が限定されますが(もちろん、その時間で集中して考えるという効果はありますが)、むしろアイデアというのは、別の作業や思考をしている間、もしくは何もしていない間に、突然浮かんだりすることも多いので、立ち話的に「こんなアイデアが浮かんだんだけどどう思う?」などと、自発的なアイデア交換の場が、不定期かつ定常的に行われることは、効果が大きいと思います。

人数は3人が適当です。2人ですと、多様性が限定的ですし、4人だと議論に加わらない人が出てきます。また、集まるにも人数が増えれば増える程、時間調整に手間がかかり、議論の頻度や機会が減ってしまいます。3人であれば、すぐ調整が付き、集まることが可能です。

また、定期的にグループ構成員を変えることも効果があります。例えば、各グループに四半期に一テーマずつ出してもらい、毎四半期でメンバーを入れ替えるということを行います。そうすると情報やアイデアは、短期間であちこちに伝播します。「前のグループの○○君は、あんなこと言っていたんだけど」といった具合です。また、組織内で、様々な組み合わせが起こることになります。加えて、アイデアや情報を、グループの間で隠すということは、短期間ではあっても、中長期的には起こり難くなります。

またある期間にまたがる活動ですので、各メンバーがそれぞれ追加的な活動を行い情報を収集するということが起こり、多様性はさらに増幅されるということも起こります。

○カジュアルな議論のための物理的な場を設ける

米国ではウォーターサーバー(水飲み場)が、カジュアルな意見交換の場になると言われています。日本では、自動販売機の前、たばこ部屋、キュービクル越しの会話、弁当を皆で食べる空間などが、そのようなカジュアルな議論の場になると思います。最近職場の空間に議論のための机と椅子を置くなどというオフィスレイアウトがありますが、むしろ、自然に議論がなされるようなセッティングの方が良いのではないでしょうか?たとえば、自動販売機の前に簡単な机と椅子を置くなどです。それからホワイトボードとマーカーが、オフィスのあちこちに置かれているという環境は、立ち話ついでに議論をする、突然湧いて出たことについて議論をするなど、アイデア創出活動を活性化する方法として有効であると思います。

このようなカジュアルな議論の場は、上で議論した「少人数グループでのテーマ創出ノルマを与える」と組み合わせることで、大きな効果を発揮します。

○全員参加型投票とベストアイデアの表彰

四半期ごとに少人数グループ出されたテーマは、全員の前でプレゼンテーションする機会を設け、その後、全員の投票により、四半期のベストテーマを決めます。そして、部門長から表彰します。このような機会を設けることで、

-全員のアイデア創出への参画意識を醸成する
-社員の間で良いアイデアを出そうというモチベーションが働くようになる
-アイデア創出の重要性を共有できる
-他グループのアイデアを聞くことで、刺激を受け、更なるアイデア創出に結び付く
-投票者側の目利き能力が向上する(投票者にはざっとした評価の視点を事前に与えておく)

といった効果が期待できます。

○「アイデア創出のための『思考筋力』を鍛える

以上の施策の効果は、直接的に良いテーマを創出できるというものもありますが、このような施策を続けていくことで、組織構成員の「アイデア創出『筋』」が鍛えられ、よりアイデアが出やすくなるという効果もあります。思考も、体の筋肉と同様に、使い続けると間違いなく、『筋力』が向上します。これは私が自分で経験してきたことです。私は特別思考能力(思考筋力)が高い人間ではありませんが、30年近く前に経営コンサルタントになってから、考える習慣づけをすることで思考筋力を鍛えることができました。それにより、様々な問題にも、比較的短時間で解を見つけることができるようになりました。これは、人間に本来備わった能力であり、まさに筋力増力と同様、誰にでも当てはまることであると思います。

次回は、自部門だけではなく、社内全体での多様な情報の共有化の議論をします。

(浪江一公)