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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第83回:革新的テーマ創出のための環境の用意(その4):その他の動機づけ法

(2014年6月9日)

 

セミナー情報

 

前回は、革新的テーマ創出に向けての組織への働きかけとして、研究開発担当者に心理的な面からテーマ創出を促す「ポジティブ要因」(強制的ではなく主体的に取組ませる要因)としての表彰について議論しました。今回は、表彰以外の「ポジティブ要因」についてもう少し広く議論したいと思います。

●2つの動機づけの考え方;内発的動機付けと外発的動機付け
モチベーションの発揮を促す方法として、「内発的動機付け」と「外発的動機付け」の2つがあります。内発的動機付けとは、個人の内部で生じる有能感など本人の前向きな感情を直接的な動機付けとするものです。外発的動機付けとは,給料,地位あるいは賞賛のような外部からの働きかけを直接的な動機づけとするものです。前回議論した表彰は、外部から提供されるもので、外発的動機付けに属します。

それでは、以下にこの2つの動機付けについて議論したいと思います。

●内発的動機付け
内発的動機付けの源となる本人の感情には、3つあります。

○「自己決定感」
外部からの指示ではなく、自らが主体的に判断・選択し活動することによって得られる喜びや充実感を言います。つまり、上司など他人から言われて行動するのではなく、自分自身の判断・選択によって活動することにより、より革新的なテーマなど高い目標に取り組むというものです。革新的な人間ほど、この自己決定感を求める欲求は強いのではないでしょうか。

この自己決定感を醸成するためには、できるだけ研究開発の担当者にテーマ選定やテーマの遂行において裁量権を与えるマネジメントが必要となります。ステージゲート法の導入に当たり、研究開発担当者から強い抵抗に直面することが多いのですが、そこには研究開発担当者の強い自己決定感を求める欲求が背後にあることを理解する必要があります。したがって、ステージゲート法導入の趣旨をよく理解してもらうこと、またメリハリを効かせたマネジメントが大前提となります。さもないと、ステージゲート法の導入により、彼らの革新性を棄損してしまうことにもなりかねません。(但し、ステージゲート法は新テーマを成功に導くために必須なプロセスであるということは、忘れてはなりません。)

○「有能感」
「得手に帆を揚げる」という言葉がありますが、意味するところは、「追い風に帆を揚げるように、得意とすることを発揮できるチャンスに恵まれたので、それを逃がさずに利用して進むこと」(「故事ことわざ辞典」http://kotowaza-allguide.com/)というものです。まさにこの言葉は、内発的動機付けの2つ目の「有能感」を言い表しています。「有能感」は、その達成に向け自分の能力に自信を持ち、高い目標に挑戦する時に感じる感覚です。皆さんもこのような感覚の経験をお持ちと思いますが、このような感覚を持つと、モチベーションは大きく高まります。

有能感を持たせるには、本人の能力で何とか頑張れば達成できると思えるような高い目標を設定することです。つまり、自分の能力を信じるような激励と、それと同時に頑張れば達成できる高い目標を課すことです。上で述べた「自己決定感」も重要ですので、本人が自ら主体的に目標にコミットすることが重要です。

○「他者受容感」
自己が主体的に判断・選択し、頑張れば達成可能な目標の設定と、その達成に向けて自信を持つことは、上で述べたように必要ですが、それに加えて、その目標達成に向けて自分を支援してくれる人たちの存在がモチベーションを高めるというものが、「他者受容感」です。したがって、孤軍奮闘させるのではなく、常に応援団の存在を感じさせなければなりません。高い目標を掲げれば場合によっては失敗することも当然ありえます。したがって、組織として失敗を許容することも重要となってきますが、これも他者受容感を生み出す要因となります。本件については、革新的テーマへの取り組みにおいて大変重要な事項ですので、別途議論をしたいと思います。

●外発的動機付け
一般的に「内発的報酬」はそれが「内発的」であるために、そのモチベーションを作り出すマネジメントは難しいのも事実です。したがって、直接的にモチベーションを高めることができる外からの働きかけによる「外発的動機付け」に目が向けられることが多いものです。「外発的動機付け」には、表彰以外には、昇進や金銭的報酬があります。それらについて議論をしましょう。

○昇進
一般的に企業では、昇進は重要な動機付け法として捉えられています。確かに、多くの社員は昇進を強く望んでおり、昇進はモチベーションを高めます。例えば、昇進によりモチベーションが向上し、今まで以上の能力を発揮するようになるということは良く起こることです。しかし、気を付けなければならない点があります。

-「ピーターの法則」の存在
ピーターの法則とは、「組織はいずれは無能の集団になる」というものです。多くの組織では、次の昇進後のポジションで必要な能力の有無ではなく、現在の職場での成果に基づき、昇進が決定されることが多いものです。つまり、論功行賞としての昇進です。しかし、ピーターの法則は、「本人がそのポジションで成果を生まなくなるまで昇進を続け、その結果組織は無能の集団になってしまう」というものです。

能力の評価より、成果の評価の方が容易ですし、説得力があります。そのため、成果に基づき昇進させてしまうということは良く起こることです。ピーターの法則が言うように、「組織は無能の集団」かどうかは別にして、多くの組織には、「なぜこんな人がマネジャーになっているのか?」と思うようなケースがあるのも事実です。

したがって、私は成果・貢献を直接的な理由として、昇進をするべきではないと思います。昇進は、次のポジションでの職責を全うできる『能力』があるかで決めるべきで、成果創出の過程で見せた、次のポジョシンで活用できる能力(例えばリーダーシップ)により評価すべきということです。

○金銭的報酬
金銭的報酬は、手っ取り早い動機付け手段として利用されます。

世の中にはお金が嫌いな人はあまりいませんので、報酬としての効果は間違いなくあります。大きな報酬が期待できれば、大きな困難もものとせず活動するとい人は多いものです。また、直接的な金銭的メリットの他にも、大きな報酬がその人の能力や努力を象徴するものでもあり、その結果本人のモチベーションを高めるということもあります。

しかし、一方で多くの心理学者が金銭的報酬のマイナス面として、金銭的報酬が、内発的動機付けの「自己決定感」を損なうことを指摘しています。また、コストが掛ることも企業経営においては問題です。また最近では、報酬は求めない人も増えています(昇進も同じ)ので、金銭的報酬の導入には注意が必要です。

次回も引き続き、「革新的テーマ創出のための環境の用意」の議論をしていきます。

(浪江一公)