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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第79回: スパークのための4つの要件

(2014年4月14日)

 

セミナー情報

 

第56回(2013年8月26日)から前回までは、スパーク(化学変化)により革新的テーマを生み出すための3つ目の原料について議論してきました。しかし、これら原料は放っておいて自然に収集さるものではありませんし、また原料が揃っても、自然に発火しテーマが生まれるものでもありません。これら原料の必要性を認識した上で、企業としてそのための仕組みを作る必要があります。私は、その仕組みは4つの要素から構成されると良いと考えています。今回から、この4つの要素について議論をしていきたいと思います。

スパークを起こすための4つの要件

1.革新的テーマのための環境の用意

仕事を分類する2つの軸に、『重要度』と『緊急度』があります。この2つの軸に沿って、それぞれ「高い」、「低い」に分けることで、4つの象限から構成されるマトリクスの図を作ることができます。まず『重要度』も『緊急度』も高い業務は、放っておいても優先的に取り組まれます。また『重要度』が低くても、『緊急度』が高い仕事も同様に優先的に取り組まれます。しかし、『重要度』が高くても、『緊急度』が低い仕事は、それでなくても多忙な中では、よほどの時間的な余裕が生まれない限り、取組がなされることはありません。

まさに、革新的テーマの創出という仕事は、この『重要度』が高いが『緊急度』は低い典型的業務で、日々『重要度』が高かろうが低かろうが優先的に取り組まれる『緊急度』の高い業務の中に埋没してしまう業務なのです。

しかし、不確実性に対処するための重要なコンセプトである「多産多死」を前提とするステージゲート法を機能させるためには、どうしても『緊急度』優先という慢性的な問題を乗り越えて、革新的テーマ創出の活動に取り組む環境を用意する必要があります。

どのような環境を用意すべきかについては、次回のメルマガの中で議論をしていきたいと思います。

2.多様なソースから情報・知識を集める

既に、第56回から前回までの中で、市場情報、技術情報、自社の強みを集める・明確にするための各論での議論はしてきました。しかし、それら情報・知識を集める前提が大変重要になります。それは「多様性」です。同質の情報をいくら沢山集めても、スパークは起きません。いくら水素を沢山集めてもそれだけではスパーク(爆発)は起きないのと同じです。水素と化学反応を起こし、爆発するための別の材料、例えば酸素が必要となるのです。

多様性の効果については、

「集団はきわめて優れた知力を発揮するし、それは往々にして集団の中で一番優秀な個人の知力よりも優れている。」(「みんなの意見は案外正しい」ジェームス・スロウィッキー著、角川グループパブリッシング)

ということがあります。この点は、多くの人が経験していることですし、このような効果があるからこそ、多様な人間から構成される人類は、それにより可能となる創意工夫により長い歴史の中で進歩してきたとも言えます。

したがって革新的テーマ創出に当たっては、積極的に「多様性」を求めて、情報・知識を収集しなければなりません。そのためには、自社の組織の最大限の活用(個人→職場のグループ→会社全体)を行い、更には社外の他のステークホルダーを広く求めて、情報・知識の収集を行なう必要があります。この10年ぐらいで世界中の企業で注目を浴びているオープンイノベーションは、まさにそのためのものです。加えて、そのような多様性を求める活動を通じて、自分自身の「個人」としても、単一の視点ではなく、多様な視点を自分の頭の中に持つように、言い換えれば頭をやわらかくする、ということもしていかなければなりません。頭をやわらかくすると、情報・知識の感受性が増幅され、より多様な情報が収集されるという良循環を生み出すことができるようになります。

3.テーマ創出に向けて情報・知識を『圧縮』

天才であれば、多様な情報・知識が集まりさえすれば、スパークは起きるかもしれません。しかし、企業での活動を現れるか現れないかわからない(多くの場合現れない)一握りの天才を頼りに、革新的テーマを創出することはできません。普通の人達が革新的テーマを継続的に創出する仕組みが必要です。

ですので、多様な知識に基づき、革新的アイデアを創出する方法論が必要となります。但し、この点については従来から、アイデア発想法など、様々な方法論が試めされ、方法論に落とされているので、これらの方法論の中から有効なものを選択し、自社の中で活用していくことが必要となります。

ただ、様々な方法論があり、またそれら方法論も進化していますので、最新の方法論については常に目を光らせ、情報収集をするという活動は重要です。この方法論については、別の回で議論をして行きたいと思います。

4.組織構成員の意欲による『発火』

最後に忘れてはならないのが、個人レベルでの意欲です。いくら以上のような仕掛け(ハード)を用意しても、最終的にアイデアを創出するのは、(集団の構成員としての)個人です。これら個人の意欲が高くなければ、最終的に『発火』はしません。常に個人が、高いエネルギーレベルを維持し、通常高いハードルや不確実性を内在する革新的テーマを生み出す苦しみを超えさせる仕組みもなければいけません。 

このソフトの問題は、心の問題ですので、そのマネジメントは簡単ではありません。しかし、イノベーティブな組織からのこのマネジメント法を学ぶことはできます。これらについても、回を改めて議論をしたいと思います。

(浪江一公)