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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第77回: スパークのための3つ目の原料:自社の強み、特に技術

(2014年3月17日)

 

セミナー情報

 

スパーク(化学変化)により革新的テーマを生み出すための3つ目の原料が、自社の強みです。市場でニーズを見つけ、そしてそのニーズに向けて製品を実現するための技術があれば、製品・サービスを生み出すことはできますが、そこから自社が確実に収益を上げるには、潜在競合企業も含め競争に勝たなければなりません。自社の強みは、自社が競合企業に勝ち確実に収益をあげるために必要な3つ目の原料です。

●自社の強みは見えないもの

自社の強みという自社のことですから、スパークの原料の1つの目の外に広く無限に広がる市場知識などに比べれば、遥かに捉えやすいという特徴があります。しかし、多くの企業で、本当に自社の強みをきちんと捉えているかというと、そうではありません。

自分自身のことを考えてみてください。他人の欠点や良さは、かなり短時間で理解することができます。それは自分の価値観との相異という形で浮き彫りになるからです。しかし、自分の価値観と自分は全く同じものですから、自分の価値観を通して自分を見ても、何も浮き彫りにはなりません。企業の強みもそれと同じで、自社の価値観で自社を見ても、本当の強みは見え難いものです。

加えて、企業の規模が大きくなればなるほど、加速度的に他の部署への関心は低下します。別の事業部などということになれば、ほとんど関心はありません。ましてや、他の事業部門が買収した海外の企業などになれば、他社とほとんど同じです。

ですので、多くの企業に本来ある強みが見えていないという問題があります。

●オープンイノベーションの前にやるべきこと

オープンイノベーションが、経営において益々重要になってきているのは事実です。しかし、オープンイノベーションのネタを探り当て、自社に使えるようにするためには、膨大な作業が必要です。実際それが、日本企業のオープンイノベーションへの積極的な取組を阻んでいるともいえます。

しかし、自社にも多くの利用可能な強みがあり、それはすぐ足元にあるのです。その存在を知りさえすれば、今の場所から手を伸ばすだけで拾い上げ、使うことができます。このような強みを使わない手ははりません。

●強みの視点:自社の技術

テーマ創出への利用という面から考えると、自社の強みは技術とそれ以外に分けることができます。特に技術は、直接的にテーマ創出に活用できます。

ちょっとここで3つのスパークの原料の2つ目に議論した「技術知識」とこの3つ目の「自社の強みの中の技術」とどう違うかを説明しておく必要があるでしょう。「技術知識」は最終的に製品を実現するための『手段』という視点からのものです。自社の技術かそうでないのかは問いません。一方この3つ目の「自社の強み」の中の自社は、『勝つ』ためのものです。これら2つの原料は、『手段』と『勝つ』ためのものという、異なる視点で議論しています。仮に今自社に『手段』として必要な技術が自社になくても、それを外部から取り入れる、もしくは今から自社で研究開発を行い手に入れるというオプションを考えることができます。したがって、原料の2つ目の「技術知識」は、自社の技術と自社にない技術の両方を含みます。しかし自社の強みの技術は、競合企業に勝つためという視点からの技術ですので、自社が保有する、もしくはその周辺の技術です。もちろん、ある特定の技術は、2つ目の「技術知識」でもあり、3つめの自社の強みの技術でもあるということはありえることですし、そのようになっていることが理想です。

●自社の技術の棚卸しの必要性

したがって、自社が保有する技術の棚卸しを行い、自社の強い技術を明らかにすることは大変有用です。自社の技術を積極的に、新事業、新製品の創出に活用しているのが、米国の3Mです。3Mでは、自社のプラットフォーム技術といわれる約40の技術分野を定義し、それら利用しないテーマは承認されないというルールが徹底されています。したがって3Mの全ての製品には、自社の技術の強みが組み込まれています。

また、自社の主要製品である写真フィルム市場の突然の蒸発を経験した富士フイルムは、新たな事業を創出するために、写真フィルム事業で活用してきた様々な技術を洗い出し自社が保有する技術を明らかにした上で、それら技術を使って様々な新製品、新事業を生み出しています。このような活動の中で象徴的なのが、化粧品のアスタリフトです。写真フィルムを生産する上でフィルムのベースとなっているゼラチンの技術は欠かせません。同社はこのゼラチン(コラーゲン)の技術を使って、アスタリフトを開発しました。

●技術の定義と名称の重要性

技術を棚卸しするには多少のテクニックが必要です。自社の要素技術は複数の表現方法があります。その表現方法には、その技術で実現できる機能(例えば界面活性技術)、そしてその技術組成(たとえばポリマー技術)、ある機能を実現するための方法(内燃機関技術)、など複数あります。

ここでの技術の棚卸しの目的は、自社の技術上の強みを明確にするためですので、これらの複数の表現法の中で、自社の強みを最もよく表現する定義をすることが重要になります。したがって、単に自社の保有する技術をリストにするだけではなく、その中から自社の技術上の強みを明確に表現するグルーピングをし、定義をし、その上で適切な名称が必要になります。なぜならば、自社の技術から革新的テーマを創出する作業は当然、長期に渡り様々な人達が関与する活動ですので、明確にその技術の意味を共有できるようにしておく必要があるからです。

●自社の技術上の強みを定義する上での重要なポイント

コア技術戦略という考え方があります。この概念の中には、自社が強い技術分野を見極め、その技術を既存事業・新市場に積極的に活用しようということと、それと同時にその分野の技術を積極的に利用することで、更にその分野の自社の技術を強くしていこうという考え方の2つが込められています。したがって自社技術に強みのある分野(コア技術)を選定・定義する上で重要なことは、自社の技術レベルに加えて、その技術が長期的に自社の収益に貢献するか?その適用分野が広いか?という点を考慮することです。

更に、現状自社のその分野での技術レベルが高くなくても、今後その分野で長期に渡り強化を重ねることで、将来のコア技術にしたいという技術もコア技術になります。

(浪江一公)