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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第64回: 「情報の収集のための積極的情報発信」(その2)

(2013年10月21日)

 

セミナー情報

 

前回から「時間軸」の6つ目の視点「情報の収集のための積極的情報発信」を議論しています。今回の前回に引き続きこのテーマについて議論します。

「情報の収集のための積極的情報発信」の必要性については、りんご(情報)を収穫するのに、一つ一つのりんごをりんごの木からもぎ取るのではなく、りんごの木の幹を揺らしてりんごを木から落とし、地面に落ちたりんごを集めるという効率的な情報の収集法というたとえ話で説明をしました。

それでは実際に企業は、どのような情報発信活動を行っているのでしょうか?

●情報の発信媒体

○自社ウェブサイト
自社のウェブサイトは大変効果的な情報発信の場です。この展開には必ずしも他企業が運営する雑誌や新聞といったメディアを使う必要がなく自社単独でできますし、また検索やリンクがしやすいので、これ以上の媒体はありません。

例えば、仁丹で有名な森下仁丹は、現在液体を包むことのできるカプセル技術を核に事業展開をしています。今の森下仁丹は、かつての仁丹メーカーではありません。同社のウェブサイトには、「カプセルテクノロジー」をいうコーナーがあり、そこでは同社のカプセル技術内容、他の技術との比較、様々な分野における応用事例などが紹介されています。これらは、すべて同社の技術を利用する顧客企業の用途先の開発のためのものです。このような活動から、同社のカプセル技術を使ったラーメンのスープの素やボディーシャンプー用の香りのカプセルなどが生み出されています。

更に同社のウェブサイトには、このカプセル技術を使った技術開発のための顧客との展開プロセスも紹介しています。

この森下仁丹のように、自社の技術を発信することで、顧客から様々な情報を収集することが期待されます。

○メールマガジン・SNS・ブログ
自社のウェブサイトへの掲載は受身です。より積極的に情報を興味を持つ対象者に直接発信する活動も必要となってきます。手段としては、メールマガジン、SNS、ブログなどがあります。これらの媒体で発信される情報の量は限定的ですが、自社のウェブサイトとリンクさせることで、数多くの情報を発信することができるというメリットがあります。

例えばホンダでは、新車に組み込まれている新技術をホンダテクノロジーニュースというメールマガジンで情報発信をしています。ホンダは基本的にB2C企業ですので、必ずしも一般の顧客から将来のテーマに関連するような技術的な問い合わせが来る可能性はさほど高くはないでしょうが、例えばこれまで取引のない自動車部品メーカーや研究機関等からの問い合わせや提案のきっかけになる可能性があります。

またGEの研究者は自分達のブログで自分達の活動の情報発信をしています。これらの情報の発信をきっかけに、他社や大学や研究機関からの技術的な問い合わせやアドバイス、意見等が寄せられています。

○自社主催シンポジウム
もちろん他社・他機関が主催するシンポジウムで自社の研究者が自社の技術を紹介する機会は多いものです。しかし、他社や他機関が主催するものですから、自社の技術の紹介の時間や機会が十分確保できないや、自社の紹介は全体の一部になる等の問題があります。それに対し、自社が主催者となり、世の関係する研究者や技術者を主体的に集めシンポジウムを行うなどの方法があります。もちろん普段からその技術においてある程度の存在感があることが前提ではありますが、その分野での専門家を集めることができれば、有効な自社技術の発信の場にもなりますし、また同時にその分野における世の中の知名度は大きく拡大します。

例えば、先のGEはバッテリー分野での自社の研究所で、自社主催の技術シンポジウムに世界中から専門家を集め、シンポジウムを開催するといったことを行っています。

○技術ショールームの設置
近年自社の技術を紹介するショールームを設け、新たな商品開発に向けて顧客の意見を得るという活動を行う企業が増えてきています。

私の理解では、このような活動を始めたのは、日本の住友スリーエムです。住友3Mは、神奈川県に以前にビデオテープ用の工場を保有していました。その後ご存知の通りビデオデッキはDVDなどに置き換わってしまいましたのでビデオテープの需要もなくなり、ビデオテープ工場の跡地の利用のアイデアとして生まれたのが同社のカスタマーテクノロジーセンター(CTC)です。本センターには、3Mで有名な約40のプラットフォーム技術うちいくつかの技術を紹介するコーナーがあり、それにインスパイアされた顧客との間で新しい商品を議論するためのものです。

その後このCTCのコンセプトは3M本体に移転され、現在では世界中の3Mの拠点に同様の施設が設置されています。

その後、このコンセプトと類似した設備の展開を、帝人、テルモ、富士ゼロックス)などが行っています。

企業の大小を問わず、自社製品のショールームを設けている企業は多いものですが、基本的に自社の『製品』を紹介するものです。しかし、上の事例のような、自社の技術を紹介するという展開により、単に製品を売るだけでなく、自社の研究開発に結びつける活動は大変有効であると思います。

○自社単独での技術展
技術ショールームは移動することはできませんが、企業によっては自社の技術を特定の顧客やある地域を対象に紹介する技術展を行っている企業があります。例えば、キャノンは毎年ではありませんが、米国や欧州で自社の技術展示会を開催しています。また、自動車メーカーを対象に、自動車メーカーの中の場所を借りて自社の技術展を開く例もあります。

以上は網羅的なリストではありません。このように通常のメディアに限らず、自社の情報を発信するに様々な工夫を行うことで、自社の顧客やサプライヤー、大学や研究機関等から有用な情報を得ることができるようになります。技術の情報発信について言うと、技術の秘匿の必要性は高いので、技術の情報発信というとそれだけで否定的な意見が出がちですが、このようなメリットをも考え、技術情報の発信の可能性やその効果について検討してみてはどうでしょうか?

(浪江一公)