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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第57回: 「市場を見る3つの視点:TAD」

(2013年9月2日)

 

セミナー情報

 

前回は「市場の知識」で明らかにするポイント、つまり市場、相反する2つのニーズ、コンテキスト、について議論しました。それでは、これらのポイントを明らかにし、継続的に革新的テーマを創出するために、どのような視点があるのでしょうか?

●市場をより広く、より深く理解する
市場を理解する活動というと、多くの会社では、目の前の具体的な製品を売るため、もしくは商品化のためのマーケティングを目的としての活動以外には関心がもたれていないのが普通です。しかし、革新的なテーマを継続的に創出するためには、これらの既存の活動から得られる情報や知識を超えて、市場をより広くまた深く理解し、さらにそれらの知識を長い期間にわたり蓄積し、組織内で共有することが重要になってきます。

企業がこのような市場をより広く、より詳しく知ろうとする活動に熱心ではないのには理由があります。まず1つ目に、このような活動は、相当長い期間売上拡大に貢献しない可能性が高いからです。日々企業存続のために目の前の収益に目を向けざるおえない企業にとっては、そこへの関心は限定されてしまします。2つ目に、市場の情報を得ることは、簡単ではないことがあります。顧客の業界においても競争が厳しくなる中、顧客の情報に関する管理はより厳しくなる傾向にあります。加えて目の前の顧客に聞いても、顧客自身がわからないという状況も増えてきています。

しかし、革新的テーマを継続的に創出するには、企業は市場の知識の重要性を十分理解した上で、企業はこれらの制約を乗り越えて、従来の活動を超えた活動を積極的に行い、市場情報を収集するための様々な工夫をし、さらに、これら活動を組織的に、かつ長期的な視点で地道に進めることが必要となります。

そのためには、具体的にはどのような活動があるのでしょうか?

●市場を分析する3つの軸:TAD
私は顧客を分析するために、3つの軸を意識し、それに沿って様々な市場を知る活動を組織的に展開するのが良いと考えています。

○時間軸(Time)
まず一つは時間軸(Time)です。市場の将来を捉えることが革新的テーマ創出には極めて重要になります。革新的テーマは実現するのに時間が掛かるということだけでなく、そもそも革新的テーマは、競合他社が気が付く前に、(潜在)ニーズの存在を探知し、テーマ化、実現をはかるものだからです。

この時間軸に沿った活動には、以下のような工夫や方法論があります。

(方法例)
ライトハウスカスタマーの活用、顧客の研究開発部門へのコンタクト、PESTEL分析、シナリオプラニング、顧客の本質ニーズの把握、など

○分野軸(Area)
2つ目が分野軸です。通常サプライヤーは自社の製品分野についてしか関心を持たないものです。しかし、顧客は自社の製品をあるシーンで単独で使っているということはなく、生産財にしても消費財にしても、他の製品やサービス、そして顧客自身の活動や設備・機器と組み合わせてシステムでその製品を使っているはずです。ここで重要になるのが、自社の製品だけではなく、顧客の自社製品に関るシステム全体に目を向けることです。

このような視野の中には、顧客自身の顧客市場にまで目を向ける、また、顧客が自社の製品を使うライフサイクルの全体中で、顧客がどのような活動を行い、課題やニーズを持つかを理解することが重要になってきます。

このような視点を持つことで、自社が従来対象としてきたニーズをより低コストで提供する方法(例えば、自社の製品を現在他のサプライヤーが提供している製品やその機能を組み合わせて提供する)もあれば、それをより高いレベルで充足する、また他の関連するニーズも対象として取り込んで対応するという機会が見えてくるものです。

(方法例)
広義の市場に目を向ける、VOC(Voice of Customers)ではなくVOM(Voice of the Market)、製品のライフサイクルを見る、など

○深度軸(Depth)
そもそも以上の2つの軸でより市場を長くそして広く見る以前に、顧客が自社の製品を利用する環境について、より深く理解する余地は大きいものです。例えば、自社の製品は実際にはどのように使われているか?どのくらいのマンパワーが掛かっているか?どの部分に時間が多く掛かっているのか?どの部分の扱いに難しさを感じているか?など、自社の製品に限定しても、理解していないことは数多くあるものです。

(方法例)
エスノグラフィーの利用、顧客コンサルティングの実施、顧客との共同開発、サービス情報の活用、効果的な顧客との議論の場の設定、など

次回から、上の方法論について一つ一つ議論をしていきたいと思います。