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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第55回: 「革新的テーマ創出のための『大きな』枠組みを構成する要素」

(2013年8月19日)

 

セミナー情報

 

前回は、革新的テーマの創出には『大きな』枠組みが必要という議論をしました。今回は、その「大きな仕組み」とはどのようなものなのか?その構成要素は何か?について議論したいと思います。

●企業活動における革新的テーマ創出の目的

企業においては革新的テーマを創出する目的は、企業価値を向上させることです。それは、大きな顧客価値を創出することにより高い収益をもたらす新製品や新事業を生み出すこと、そして生産プロセスなどのコスト面の改革を行い自社のコストを大幅に低減することから達成されます。ただし、ほとんどの企業において、その重みやテーマの数から言うと、前者の比重が遥かに大きいと考えられるので、前者、すなわち大きな顧客価値を創出することを革新的テーマ創出の目的と考えてさしつかえないと思います。

●「革新」を実現する要件

一般的には「革新」(イノベーション)とはどのように生み出されるのでしょうか?この点については、これまで様々な先駆者のイノベーションの研究から、多様な知の結合で生まれるという点については、議論の余地はあまりないようです。イノベーションの研究で有名なシュンペーターは「イノベーションとは新結合だ」と言っていますし、昨年亡くなったアップルのスティーブ・ジョブズは「創造力とは、いろいろなものをつなぐ力だ」と言っていました。

「新結合」や「つなぐ力」は、1+1から単なる合計の2ではなく、10や100、更には1万を生み出すものですので、別の言い方をすると多様な知識が『スパーク』(化学反応)し、別の次元の新たなものを生み出すことと言い換えることができると思います。

●革新的テーマの原料としての3つの要素

それでは高い価値を創出するテーマは、その根本においては何がスパークして生まれるのでしょうか?私は、まず顧客およびその集合体である『市場についての知識』、具体的にはどのような価値の実現が市場において求められるのかについての直接的・間接的知識が最も重要な要素と考えています。なぜなら、冒頭で議論したように、企業における革新的テーマとは『顧客にとって』大きな価値を生み出すテーマであるからです。これなくして企業にとっての革新的テーマの創出の意義はありません。

しかし、顧客に大きな価値を創出することは、顧客は人間であろうと企業であろうと今後何百年もの長い間存在しつづけるでしょうから、価値創出機会は長い目で見れば無限と言える程数多くあるはずです。しかし、この今のこの時点での経営の時間的視野の範囲である10年から15年程度を考えると、その大きな顧客価値が実現できなければなりません。その実現の方法が技術です。つまり、その大きな顧客価値をどのように実現するかの様々な『技術についての知識』が必要となります。

加えて、企業には常に競合企業が存在するわけで、そのテーマから実際の製品を実現し、その製品を事業化し、実際の事業展開をする中で、他者との競争に勝つことができなければ、最終的な革新的テーマの果実である高い収益を生むことはできません。従って、革新的テーマが、ある企業によって選択され、実行に移されるのであれば、その企業の強みが発揮され、最終的な事業展開において、他の競合企業に勝たなければなりません。従って、第三の要素として、『自社の強み』が重要となります。

以上、革新的テーマは、『市場についての知識』、『技術についての知識』、そして『自社の強み』の3つの原料のスパークにより、創出されると考えるのが適当ではないかと思います。従って、多様な市場の知識を蓄積する、顧客価値を実現するための技術的な知識を深める、自社の強みを明らかにするという活動や仕組みが必要となります。

●スパークを起こすための3つの場の要件

しかし、組織内にこれら3つの原料がそろえば自然に発火してスパークが起きるかというと、そうではありません。私は、スパークを起こすには、更に3つの要件を満たす必要があると考えています。

○アイデアを発想するための時間の確保
ほとんどの研究者や社員は目の前の仕事に追われているものです。人間は他に大きな関心を持つ中では、新な発想をする心理的な余裕はありません。これはたぶん、動物の生存に関わる本能に基づくもので、人間もそのようにできているのでしょう」。したがって、革新的なアイデアを創出するための、心理的・時間的な余裕を研究者や技術者に与えることが必要となります。3Mの15%カルチャーやグーグルの20%ルールなどは、このための仕組みと考えることができます。

○様々な関連する市場や技術に関する知識を圧縮し発火(スパーク)の前提を作るための仕組み
ガソリンエンジンには、ガス化した燃料をピストンで圧縮することで、着火により大きなエネルギーを生み出す仕組みが組み込まれています。このアナロジーと同じように、まず革新的テーマは、スパークする前提としてここまでの活動から得られた、様々な関係していながら分散している知識や情報を圧縮する仕組みが必要となります。その仕組みとは、ドメインの明確化、様々な関連する知識や情報が効果的に出会う場、多様な知識を統合・集約して革新的テーマに導くための方法論(ブレーンストーミングなどの発想法)などと考えることができます。

革新的テーマというと、すぐにアイデア発想法の議論に行きやすいのですが、アイデア発想法とは、この部分のみを担当するものです。もちろん発想法自体は大変重要な役割を担うものの、それを効果的に利用する前提にはそれだけでは不十分で、上で議論した革新的テーマの原料としての3つの要素や下で触れるもう一つの前提活動が重要な要素として存在する必要であるということです。

○圧縮された知識・情報に着火するための組織の活性化
これまで議論した要素や要件がそろっても、まだ継続的に革新的テーマを創出するには不十分です。革新的テーマは以上のような活動の結果、自然に生まれるものではありません。最後に絶対に必要なのが、圧縮された知識・情報に着火するための革新的テーマを創出したい、しなければならないという人間の強い思いを生み出す継続的な仕組みです。このような着火するための大きなエネルギーが必要で、社員や組織の中にそのようなエネルギーを醸成する組織の活性化の仕組みが必須です。

以上、企業にとっての革新的テーマを生み出すための大きな仕組みを構成する3つのスパークの原料とスパークを起こすための3つの場の要件を議論しました。次回からは、それぞれの要素をどう具体的に実現していくかについて考えていきたいと思います。