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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第52回: 「オープンイノベーションのステージゲート・プロセスへの意味合い」

(2013年7月29日)

 

セミナー情報

 

数年前からオープンイノベーションの重要性が話題に上るようになり、企業のなかにはオープンイノベーションに向けて、専門部門を設ける企業も出てきています。今回は、オープンイノベーションとステージゲート法の関係について議論したいと思います。

●オープンイノベーションの種類
一言でオープンイノベーションといっても、外部から技術や製品を持ってくるインバウンドと、自社が生み出した技術・製品の成果を外部に提供する2つの大きな方向があります。また、取引する対象もアイデア、テーマ、完成技術、完成製品など、その完成度も様々です。

以下ではこのうち、インバウンドのオープンイノベーションを前提に議論をしていきます。

●オープンイノベーション(インバウンド)の目的

オープンイノベーションは何のために行なうのでしょうか?目的は大きく2つあります。1つは、製品展開や事業化のスピードアップです。製品や事業の機会を見出したら、できるだけ早くキャッシュを生み出し企業価値(たとえばプロジェクトのNPVで表わされる)を上げる必要があります。また、競合企業に先んじ無競争の期間を長くし、また同時に市場での自社の橋頭堡を早く築き、市場でより良いポジションととるということもあります。

もう1つは、コストやリスクの低減です。自社で今からそのテーマを手掛けるのでは、成功するかどうかはわかりません。また成功するにしても試行錯誤などコストが高くなる可能性もあります。すでに確立済の外部の技術や製品、もしくは自社にない強みを持つ外部企業・機関を効果的に使って、コストやリスクを低減することです。

世界規模での新興国企業の競争への参戦で、競争環境が益々厳しくなる状況においては、オープンイノベーションは今後日本企業にとって重要な経営上の活動となっていくことは間違いありません。

●オープンイノベーションは目的ではなく手段

ここで重要な点が、オープンイノベーションは目的ではなく、手段であるということです。既に決定済の製品、事業、更にはその上位の事業ビジョンを補完・強化するためや、ある製品や事業の展開のためのビジネスモデルを効果的に実現する上で必要となる、補完的な技術や製品を外部企業や機関を活用し獲得するためのものです。

中にはオープンイノベーションありきで、この活動を進める企業がありますが、確かにオープンイノベーションは上で述べた目的を効果的に実現してくれるものなのですが、決してオープンイノベーション自体が目的ではありません。前提となる事業や製品に関するビジョン、戦略、ビジネスモデルなどの意思や計画があって、初めて効果を生み出すものなのです。またこの点が明確でないと、オープンイノベーション実現自体にもリスクや障害が存在するので、これらのリスクや障害を乗り越えてオープンイノベーションを実現しようということにはならないものです。

●ステージゲート法への意味合い
以上のようにオープンイノベーションは今後の企業活動の中では、欠くべからざる活動であり、研究開発や事業開発においても、とても重要な要素となっています。従って、ステージゲート・プロセスの構築に当っても、オープンイノベーションを前提とした仕組みとしていくことが必要となります。

しかし、一方でプロジェクトチームは、外部の企業や機関の調査や提携関係の構築といった、従来はあまり必要でなかった活動には消極的なものです。放っておけば、何でも自社で展開するという計画になってしまう可能性は大きいのです。

以上のような背景をから、ゲートでの評価項目においてオープンイノベーションの視点を加味し、以下のような評価項目を追加していく必要があります。

○スピードアップ、コスト・リスク低減という視点から、当該テーマを自社で展開する必要性は高いか?つまり、このテーマの実現は自社にとって必要であっても(この必要性は他の評価項目で評価)、自社で手掛ける必要があるのかどうかを評価します。外部の技術や製品を持ってくること実現できないかということです。オープンイノベーションで先駆的な企業であるP&Gは、コネクト&デベロップという戦略的なプログラムのなかで積極的にオープンイノベーションを進め、例えば、スイッファーという掃除製品は競合企業のユニチャームから提供を受けています。

○スピードアップ、コスト・リスク低減法として外部の活用が効果的に組み込まれているか?仮にこのテーマを自社で展開するにしても、部分的に外部の技術や能力を使う余地はないかを評価するものです。

○提携先として最適な企業・機関が選定されているか?オープンイノベーションが最適な展開法であるとしても、提携先の企業・機関が最適かどうかは別問題です。この点も評価する必要があります。

○オープンイノベーション実現に向けて最適な計画になっているかそして最後に、オープンイノベーションに向けてきちんとした計画・体制があるかどうかという点も重要な評価点となります。多くの企業において、オープンイノベーションの経験は多くはありません。そのため事前に十分な検討を行ない、適切な計画が用意されていることが必要となります。