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日本企業復活の処方箋「ステージゲート法」

第48回: 「研究者・技術者の前向きな取組を獲得するには」

(2013年7月1日)

 

セミナー情報

 

ステージゲート法の導入の大きな問題が、プロジェクトチーム側である研究者や技術者の方々の抵抗です。今回はこの問題について議論したいと思います。

■ステージゲート法導入は本当はプロジェクトチームにメリットが大きい

ステージゲート法の導入は、経営者側のメリットからのだけでなく、プロジェクトチーム側にとってもメリットが大きいものです。以下のようなメリットがあります。

1. 次のゲートで評価される項目が明確なため、前のステージでの活動が明確になる。
評価者の属人的な基準でゲートで評価するのでは、評価者が変わると評価の視点も変わってしまいます。その結果、プロジェクトチームは評価に向けてどのような活動をして良いのかが分かりません。評価の視点が事前に提供されていれば、プロジェクトチームは効率良く活動することができます。

2. プロジェクトの成功の確率が高まる。
ゲートでの評価項目は、事業で成功するための視点から用意されていますので、それに向けて活動を行えば、必然的に成功の確率は高まります。

3. 事業のセンスを磨くことができる。
このような活動を続けていると、研究者や技術者の事業のセンスが磨かれてくるものです。そうなると、もちろんプロジェクトの成功の確率が上がりますが、それ以外にも本人達のモラールが向上します。

4. 新なテーマの創出がし易くなる。
常に(評価項目の重要な視点であるべき)市場に目を向けていると、顧客の考えや自社製品の利用環境についての知識が増えていき、市場についての洞察力が向上します。その結果、数多くのテーマを創出することが容易できるようになります。

■研究者・技術者の抵抗の理由

しかし、多くの場合ステージゲート法導入は、研究者や技術者の抵抗を受けます。理由は3つあります。

1. 上のメリットが理解されない(説明していない)
通常は、事務局サイドも上のメリットを十分理解しているわけではなく、この説明を割愛してしまします。その結果、研究者・技術者側には、ステージゲート法導入の理由は理解されません。

2. 仕事が増えると考える。
研究者・技術者に限らず、組織の構成者は本能的に追加的な仕事には本能的に抵抗を示します。管理が増えたと考えるからです。まして何ページにもわたるテンプレートを示されては、それは決定的となります。

3. 市場に関わる調査や計画策定の経験がないため否定的になる。
ステージゲート法は、早期からマーケティングや事業戦略の策定を行なうものですが、そのような経験をもたないことから、なんとか理由をつけて抵抗しようとするものです。

■研究者・技術者の協力を得るには(その1):コミュニケーションを行なう。

以上、研究者や技術者の抵抗の原因は明らかですので、その原因を解消することで、ステージゲート法への抵抗を払拭することができます。

まずはなんと言っても、ステージゲート法導入による、上であげたようなプロジェクトチーム側へのメリットをきちんと説明することが必要です。また、ステージゲート法の説明はそのメリットから始める必要があります。ステージゲート法の特徴であるフロントローディングなどを最初に説明すると、そこで拒否反応が生まれ、その後にその拒否反応を払拭することは難しくなります。

また、もう1つ説明しなければならない点として、研究者や技術者が追加的にしなければならない(但し本来やるべきことで今までできていなかったこと)作業、すなわち市場の調査や計画の策定は決して難しいことではないということを伝える必要があります。実際、研究者や技術者が日々取り組んでいる技術に関わる内容よりも遥かに簡単です。

■研究者・技術者の協力を得るには(その2):十分な支援を行なう。

しかし、短に簡単であると説明しても信用してくれません。その為に、ステージゲート法導入に当り、きちんと支援体制を敷き、会社としても導入促進に力を入れるということを伝えなければなりません。

まずは、プロセスマネジャーを任命し、「プロジェクトチーム」の支援を目的に、活動を行う必要があります。また、プロセスマネジャーにどのような人材が当てられるかは、プロジェクトチーム側は敏感に会社の真剣度の度合い、その支援の度合いを理解するものです。プロセスマネジャーにはそのシニアレベル、能力、および人間性から、この人がプロセスマネジャーをやるなら、会社も本気だな、きちんと支援してくれそうだ、と思わせなければなりません。

加えて研究所の場合、企業によっては、研究所にマーケティングチームを作り、ステージでの活動、特に顧客との対話や調査において支援する機能を置く場合もあります。私はこの機能は大変有効であると思っています。マーケティング面が強化されるという点以外にも、マーケティングチームと研究者が一緒にマーケティング活動を行うことで、研究者のOJTを実施することができます。

最近研究者や技術者を対象に、マーケティング研修を行なう企業が増えてきていますが、突然3Cや4P、STPなどマーケティング用語を説明してもぴんここないものです。一方ステージゲートのゲートやステージでの活動を直接関係させマーケティング研修を行なうことで、自分達の仕事と直接関係させて理解でき、効果は大きいものです。

■研究者・技術者の協力を得るには(その3):評価者側も事業センスをつける。

いくらプロジェクトチーム側が上のような仕組みにより、マーケティング面での活動を強化しても、ゲートで、ゲートキーパーが相変わらず、ピントハズレの発言をしていては、プロジェクトチーム側のやる気はうせてしまいます。残念ながら評価者側にも事業のセンスが欠けている場合は多いものです。

評価者側にも、事業センスや事業戦略の基本を学ぶ研修などを実施することが必要になります。ただ、長期的には、ステージゲート法を導入することでプロジェクトチームに事業のセンスが生まれ、その中の人たちがやがては評価者になるというサイクルを作ることが、ステージゲート法の理想です。

 

私の経験では以上をきちんとおこなうことで、研究者や技術者は前向きに取り組んでくれるものです。