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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第43回:ゲートの運営(その36):ゲートミーティングの運営(6)
「テーマはWhatで、人はHowで評価する」

(2013年5月27日)

 

セミナー情報

 

 ゲートでの運用で最も難しいことの一つが、テーマの中止です。前回は、テーマの中止がなぜ難しいのか、その理由をあげて議論をしました。今回から数回にわけて、中止すべきテーマを確実に中止するために、前回あげた理由を踏まえて、どのような対応策を考えれば良いかについて議論したいと思います。

■失敗を罰しない

 前回のテーマを中止しない理由の一つ目に、「プロジェクトチームのモラールが下がる」をあげました。モラールが下がる一番の理由は、中止は失敗を意味し、プロジェクトメンバーの人事評価を下げるという方法で「失敗を罰する」からです。この問題への対応は、テーマ中止になっても人事評価を下げるな、です。そもそもステージゲート法の大前提となるコンセプトは、「多産多死」で、初期の取組テーマは玉石混交で、その中には必ず多くの石(結局は筋の悪いテーマと判明するテーマ)が存在しますから、中止テーマは数多く発生します。そのため、テーマ中止を確実に行ったとすると、研究開発担当者のほとんどの人事評価は下がってしまうということが起こります。その結果、本来のステージゲート法の意図とは正反対に、不確実性の高い革新的なテーマへの取組は誰もしなくなってしまいます。

 失敗をどう扱うかは、研究開発マネジメントにおいては重要な課題ですが、「失敗は罰するな」、更には「失敗を称賛せよ」です。まさに、世の中でイノベーティブは組織を持つ3Mやホンダは失敗をすることを称賛する仕組みや風土を持ちます。

■経営者のマインドセット

 「失敗を罰してはいけない」というは良く言われることですので、このロジックは、どの経営者も頭では理解していると思います。しかし、本当に心底理解できているかというと、多くの経営者がそうではないと思います。腹の奥底には「失敗は悪である」という潜在意識が、しっかりと鎮座しているのです。

 そのため、「失敗は悪である」→「失敗したら罰を与える」・「プロジェクトチームの評価が下がる」→「モラールが低下する」となってしまうのです。

■ワイガヤで日本の経営者のマインドセットを転換する

 このような心の奥底の潜在意識を一度掃除し払拭する必要があります。そのためにはどうしたらよいか?

 ステージゲート法を象徴する図として、漏斗の注ぎ口を左にして横に倒し、その左の入り口から数多くのテーマをステージゲートプロセスに投入し、漏斗のプロセスで数多くのテーマを落とし、最終的に右の出口から数少ない革新的な製品が出てくるという図があります。まさに、革新的なテーマというのは、このような構造の中から生まれるのです。ステージゲート法の本質はここから始まります。

 このような全体像の図を認識していないと、ゲートキーパーの関心が目の前のテーマの目の前ゲートにばかり向き、結局はテーマの中止が難しいということになってしまうのです。

 この問題を解決するために、まさに、この図が本質的に正しいのかを、経営者の間で、さらにその下の管理者レベルでも、徹底して議論することを是非お勧めします。まさに、ホンダで言う、ワイガヤです。この点について共通認識を持ち、心の底からこの有効性を理解しない限り、本来のステージゲート法は機能しません。

■テーマはWhatで、人はHowで評価する

 とは言いながらも、「失敗は悪である」場合ももちろんあります。それでは「悪い失敗」と「良い失敗」を分けるためにはどうしたら良いのでしょうか。

 私は、テーマはWhatで評価し、プロジェクトメンバーはHowで評価する、を徹底するべきだと思います。テーマの筋の良さは冷徹に判断しなければなりません。それは、プロジェクトチームが作成した成果物とゲートでのその内容のプレゼンテーション、すなわち前ステージでの結果(What)に基づき評価します。ここで、「失敗」と判断されても、この部分では「悪い失敗」も「良い失敗」もありません。

 一方でプロジェクトチームは、前ステージでどのような活動を行ったか、所定の活動をきちんと行ったか、途中で状況が変わったなら、それを踏まえてよく考え、積極的な活動を行ったか?すなわち、Howで評価するのです。ここでYesなら「良い失敗」です。Noなら「悪い失敗」です。「良い失敗」活動の成果(そのプロジェクトの本来の筋の良さ)は、プロジェクトチームの責任ではありません。

 したがって、テーマは中止になったが、プロジェクトチームは高い評価を得るということは十分あり得ることなのです。「良い失敗」は高く評価しましょう。

 次回もテーマの中止法の議論を続けます。