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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第22回:ゲートの運営(その15):事業評価(10)
「ゲートは戦略意志確認の場」

(2012年12月25日)

 

セミナー情報

 

 今回は、事業評価における競合の評価について考えてみたいと思います。

■競合分析の項目

 競合分析の評価項目は、通常以下のような項目の過去、現状、今後を分析・評価することです。ここには、特に目新しいことはありません。

-業界の構造
競合企業の顔ぶれ・数、各社シェア分布
-個別競合企業
強み・弱み、事業戦略(技術含む)、企業業績(売上高、成長率、利益率)
-競合製品
特徴、強み・弱み、製品戦略(技術含む)、製品業績(売上高、成長率、利益率)

■競合分析の難しさ

 しかし、競合分析においては、市場分析と比べ以下のような難しさがあります。

(1)直接競合企業に聞くことは難しい

 多くの場合、顧客調査のように、競合企業に直接インタビューを行うことはできません。既存分野であれば、競合企業ともなんらかの接点があり、意見交換をするということはありえますが、新しい分野となると、競合企業とはそのような関係もありません。加えて自社の意図を競合企業にさらすことにもなり、現実的ではない場合が多いと思います。

(2)競合企業も不確実性の中で動いている

 加えて、競合企業も不確実性の下で意思決定を行い、それに基づき活動しており、現状の姿や更には将来の姿を想定することは、不可能とは言わないまでも、大変難しいことです。

 競合企業が強力な企業である場合は、つい彼らは将来を見通した上で活動していると思ってしまいがちですが、競合企業とて人間が経営している訳で、自社と同様そのようなことはないのが実際でしょう。

■競合分析の難しさへの対処

 それでは、このような競合分析の難しさにどう対処したらよいでしょうか?

(1)直接聞くことは難しいことへの対処

 聞けない、聞いても教えてくれないのですから、知りうる情報を許される予算と時間の範囲内で、徹底して集め、それら断片情報から、上の評価項目を想定するという知的な活動を行うことです。

 断片情報としては、展示会、公開資料(新聞、業界誌、論文、特許情報、調査レポート)、実際の製品、販促資料、顧客の意見、専門家の意見、そして日々の活動の中で入ってくる非公式の情報等です。これらだけでも相当な情報量になると思います。

 ここで重要なのは、「断片」でも情報を集めることをいとわず、また様々な断片的な情報を統合して「考える」ということです。競合企業は、必ずある特定の意図を持って活動している訳ですから、その行動には整合性があり、自社が集める様々な断片情報(信頼できる情報であれば)も、必ずその意図に沿ったものである筈です。それらを俯瞰的に見て、そこからの意味合いを抽出すべく考えることで、そこから共通項としてその意図や活動が浮かび上がってきます。

 更に、そのような俯瞰的な思考を繰り返すことにより、筋力トレーニングと同様、限られた情報から全体を想定するという洞察的な能力が鍛えられます。これらは私自身の経営コンサルタントの経験からも、実感していることです。

(2)競合企業も不確実性の中で動いていることへの対処

 競合企業が考えていないことを、自社が限定された情報に基づき、想定するということは、現実にはほとんど不可能です。つまり、この問題への対処は、(徹底して断片情報を集めそこから意味合いを考えることはするものの)「競合企業の活動を読みきることはできない」という前提に立つということです。

■必ず勝つという強い意思を持つ

 だからといって、競合環境という自社の成功に重大な影響を与える事項に対し、「将来のことはわからない」と言って、それ以上競合に対処しないということでよい訳ではありません。

 競合企業の今後の戦略や展開が見えない部分への対処法としては、どんな展開をしてこようとも、競合企業に必ず勝つという強い意思を持って、プロジェクトを進めるということだと思います。これは精神論ではありません。仮に、競合企業の半分のシェアしか持っていなくても、競合企業の2倍の経営資源(知恵、人、金)を長期に投入し続ければ勝てるのです。

■必ず勝つという強い意思を持つ前提:自社の戦略的な意図と市場の長期的な魅力度

 それでは、必ず勝つとう意思を持てるには、何が必要でしょうか?それは上位の自社の戦略との整合性と市場の長期的な魅力度の両者です。将来の競合環境が明確に読めなくても、この二つがあれば、そのプロジェクトは前に進めるということになります。

 従って、競合分析はその限界を甘受し、むしろ自社戦略との整合性や市場の長期的な魅力をより重要な判断根拠として決定するということです。

 つまりゲートは必ずしも客観的な評価だけを行う場ではない。戦略意思の確認の場でもある、ということです。