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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第21回:ゲートの運営(その14):事業評価(9)
「顧客の評価を受ける活動:案ずるより産むが易し」

(2012年12月17日)

 

セミナー情報

 

 前回までの5回を利用して、市場ニーズや顧客価値の重要性やその視点について議論をしてきました。しかし、それらの自社の認識は誤解を恐れずに言えば、勝手なサプライヤーの想定であり、本当にその製品やその製品のコンセプトに対し顧客が価値を認識するかは、実際に顧客に聞いて見なければわかりません。今回は、この顧客による直接評価について議論します。

■市場ニーズは捉え難いもの

 革新的なテーマである程、ニーズは潜在化しています。市場のニーズを捉えることは大変難しい作業です。実際には、これまでの経験、数少ない顧客の話、断片的な公開情報等からそのテーマが対象とする市場ニーズを想定するわけですが、その市場ニーズが誤っている可能性は、かなりあります(特に初期には)。それがはっきりするのは、実際に製品を市場に出してからです。しかし、それでは遅すぎますし、それをしないためにあるのがステージゲート法です。

■顧客に製品コンセプトについての直接意見を聞く

 この問題に対する考えられうる最良の方法が、直接顧客にその製品のコンセプトを提示して、意見を聞くことです。それ以上の確実な方法はありません。

■顧客に製品コンセプトを提示する大きな心理的抵抗

 しかし、多くの企業がそのようなことしません。なぜなのでしょうか?いくつか理由があると思います。まず、「完成していないものに対し、外乱は入れたくない。顧客に提示するにしても、もっと完成度が上がってからにしたい」、「外部の否定的な意見は聞きたくない」またそのため「内部の検討に注力したい」という心理が働きます。また、アイデアが外部に漏れることや、顧客との間での知的財産の問題への危惧も大きな障害です。また、まだ形になっていないものを、どう顧客に提示するのかわからないという問題もあります。加えて製品コンセプトを提示する顧客を見つけ、面会の約束を取り付け、実際に会う場を作るのも、かなり面倒な作業です。海外の顧客などということになればなお更です。

 これは作業はもちろんかなりの手間ですが、実はさほど難しいことではありません。やろうと思えばできます。むしろ問題なのは、時間的なプレッシャーがある中では、これらの複数要素が集まると、『心理的な』抵抗が相当大きくなります。

■心理的な抵抗への対応策:顧客の評価をゲートでの評価項目に加えること

 これら抵抗への対応策は、顧客の評価をゲートでの評価項目に加えてしまうことです。そうすれば心理的な抵抗があろうがなかろうが、プロジェクトチーム側はやらなければなりません。一度やれば「案ずるより産むが易し」であることが分かります。また、繰返し行うことで、習熟します。また、より重要なことに、顧客の意見を聞くことの価値が実感できて、担当者側から積極的に顧客の意見を聞こうという意識が生まれてきます。

 但し、社内にこのような活動を支援する体制は必要でしょう。例えば、研究所にマーケティングチームを作り、研究者と一緒にこのような活動を行うことは大変有効です。

 以上に加え、顧客の意見を聞く上で注意することがあります。

■重要な視点1:「顧客ニーズ」ではなく「市場ニーズ」

 数少ない声の大きな顧客に提示するだけでは、だめだということがあります。その顧客は市場の意見を代弁していない可能性もあり、多くのプロジェクトの失敗の原因となっています。評価者も評価時にこの点に十分に注意する必要があります。

■重要な視点2:「新しいものは理解されない」を前提にする。

 革新的なテーマであるほど、顧客は否定的に考える可能性があります。なぜなら、既に既存のなんらかの解決策が存在するのが普通であり、その解決策に問題を認識していない場合には、これまでのやり方を変えるというだけで、顧客サイドに抵抗感があります。何しろ、慣れ親しんだやり方を変えるというコスト(スイッチングコスト)が発生しますが。その一方で、その新しいテーマの成果はこの段階では顧客には想像してもらうしかなく、実感することができません。この点を注意し、自社の製品コンセプトの価値を理解してもらうような工夫が必要です(例えばモックアップを見せる等)。

■重要な視点3:「良い評価をしても顧客は損しない」ことを理解する。

 一方で逆に顧客は、「わざわざ足を運んで来てくれた」、「別に良い評価をしてもこちらに損はない」と思い、実態以上に良い評価をしてしまう可能性もあります。更に、このような顧客にはこちらも、その顧客との会話の雰囲気から「実態以上に好意的だ」と感じることができる場合も多いものでが、こちらとしては良い評価を引出したいとい誘惑に駆られ、そのような意見を「あえて」そのまま受けるということをしてしまいがちです。

 顧客に商品コンセプトを提示して意見を求める方法は大変重要ですので、別途「ステージ」の活動の中で、議論を続けたいと思います。