Top
> メルマガ:日本の製造業復活の処方箋『ステージゲート法』

 

日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第20回:ゲートの運営(その13):事業評価(8)
「消費財の顧客価値認識分野」

(2012年12月10日)

 

セミナー情報

 

 前回、前々回には生産財の顧客価値認識分野を表すCUPOSモデルを紹介しました。CUPOSモデルの詳細を議論する前に、消費財には同じようなモデルがあるのかの議論をしたいと思います。

■消費財のモデルは?

まずは既存のモデルとして、顧客価値認識分野を表すものとして、どのようなものがあるのでしょうか?

(1)4Cモデル

4Cとは、顧客価値(Customer Value)、コミュニケーション(Communication)、顧客コスト(Cost)、利便性(Convenience)のことを言い、マーケティングの4P(Product、Promotion、Price、Place)がサプライヤーの視点となっているものを、顧客に視点から置き換えたものです。

この4Cの全項目を広義の顧客価値と見ることができますが、その中の一つとして「顧客価値」(狭義)が含まれています。しかし、顧客価値をそれ以上には分割はしておらず、あまり顧客価値提供の機会のありかを見つけることに役立ちそうにはありません。

(2)機能的価値と情緒的価値

多くの製品が、その製品本来の基本提供機能を超えた機能を実現しています。例えばi-Phoneの購入者は、単にスマートフォーンの通信をするという機能から得られる価値(機能的価値)を越えた価値を認識しています。例えば、かっこいいであるとか、使って楽しいといった情緒的な価値を認識して、他のスマートフォーンではなく、i-Phoneを購入するのです。消費財の場合には、消費者は多かれ少なかれこのような情緒的な価値を認識しています。

顧客価値の視点を拡張したという意味では、有効な考え方です。しかし、研究開発テーマの実現価値の評価の議論においては、機能的価値、情緒的価値両者について、消費者が人間として、どのような領域で価値を認識するのかを、もと掘り下げて知りたいと思うのではないでしょうか。

(3)商品価値の4階層

商品の価値には4階層あり、それぞれ、基本価値(その商品の機能が持つ価値)、便宜価値(便利に手近に使えることが付加された価値)、感覚価値(楽しく消費する価値)、観念価値(商品の意味やコンテキストによって得られる価値。例えばコカコーラに感じるアメリカへのあこがれの充足)という考え方があります(*)。上の(2)の情緒価値が、便益価値、感覚価値、観念価値に分割されて、かなり参考にはなります。

但し、(2)と同じで、人間とはそもそも、どういうものに価値を感じるのかには明確には答えていません。

*:http://blog.livedoor.jp/neologi_shohizai/archives/374194.html

(4)マズローの欲求段階説

そうなると、消費者という人間がその充足によって感じる価値の前提となる人間の欲求にまで議論を掘り下げるのがよさそうです。

人間の欲求の分類には、マズローの欲求段階説が有名です。マズローは人間の欲求を、「生理的欲求」「安全への欲求」「社会的欲求」「自我欲求」「自己実現欲求」の5つに分類しています。参考にはなりますが、研究開発テーマとの距離感は大きいものがあります。

(5)仏教の七欲

仏教では人間の欲を、食欲、金銭欲、物欲、色欲、権力欲、名誉欲、睡眠欲の7つと定義しています。但し、上の(4)と同じ問題があります。

(6)マレー

アメリカの心理学者H.A.マレーの欲求モデルによれば以下の28の欲求が人間に認められるとしています。

獲得、保存、秩序、保持、構成、優越、達成、承認、顕示、保身、劣等感回避、防衛、反発、支配、恭順、模倣、自立、対立、攻撃、屈従、非難回避、親和、拒絶、看護、救援、遊戯、求知、解明(出所:ウィキペディア)

このマレーの研究結果はかなり網羅的で、消費財の価値提供に参考になりそうです。但し、逆に数も多く、それぞれの企業の製品には初めから該当しない項目がかなり含まれているので、そのままで、もしくはグループ化しても、利用するには不便と思います。

■消費財モデルについての結論:自社製品の周りでの顧客価値をリスト化する。

以上、既存のモデルは、いずれも研究開発テーマの評価の議論には、「帯に短し襷に長し」です。

消費者としての人間は大変複雑で、消費財は、生産財とは異なり、合目的性がなく、様々な分野に広がっています。一方、自社の製品の周りでの関連する欲求は広くはないので、生産財のCUPOSモデルのような網羅的でかつある程度の具体性を持ったモデルを、消費財全体を対象とした共通的に作ることは困難のようです。

従って、自社の製品に関係のある周辺の顧客価値提供領域を、上のようなモデルを参考に個別に議論し、自社に合った顧客価値リストを作ることが良いと思われます。

■自動車の顧客提供価値分野の例

以下は、私が作った自動車(一般消費者向け乗用車)の顧客提供価値領域のリストです。

移動性、安全性、快適性、運動・運転性、経済性、社会性、利便性、信頼性、見栄・自己表現性

予めこのような自社が対象とする顧客価値を詳細な研究・調査により明らかにし、社内で共有化するとともに、ゲートキーパーが深く理解した上で、ゲートでの議論・評価を行うことで、適正な評価をすることができるようにます。この点は、生産財も共通です。