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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第19回:ゲートの運営(その12):事業評価(7)
「顧客価値評価の視点:なぜQCDではないのか?」

(2012年12月3日)

 

セミナー情報

 

 前回は、ゲートにおける「事業評価」の中で、そのテーマが最終的に創出する顧客価値が極めて重要である。そうであると、「価値はどのような場合に顧客によって認識されるか?」をきちんと認識しておかなければならない。という議論の中で、生産財において顧客が価値を認識する分野としCUPOS(Cost、Unit、Price、Organization、Society)モデルを提示しました。今回はなぜCUPOSなのかを議論したいと思います。今回の議論は、一貫して生産財について議論しますので、この点を議論の前提として覚えておいてください。(消費財については別途議論します。)

■なぜQCDではないのか?

 企業の活動のディシプリンとして日本企業で最も広く使われている言葉に、QCDがあります。つまり品質、コスト、時間です。生産財の顧客が価値を見出す視点からいうと、大変よさそうです。なぜなら、顧客は自社の製品やサービス、また社内の業務の品質(Q)を向上させ、全体のオペレーションのコスト(C)を低減し、何事も速くやる(D)、には企業は大きな価値を置きそうです。

 悪くありません。しかし、顧客価値を考える場合には、2点問題があるように思えます。

 1つ目に、ゲートにおける顧客価値の評価には、顧客が価値を認識する全ての領域をカバーしている必要があります。QCDは顧客が価値を認識する分野を全てカバーしていません。例えば、自社が提供する部品により、顧客の製品の魅力が向上した場合は、カバーできていないように思えます。つまり「網羅性」がないことです。

 2つ目に、時間(速い・早い)はなぜ顧客に価値を提供するのでしょうか?もともとQCDのDはDeliveryのDであり、何事も速くするのが良いということがあります。でも速いとなぜ良いのでしょうか?在庫が圧縮できる。顧客の突然のニーズ発生に対応できる。等々いろいろな価値に結びつきそうです。つまり、DがCやQの向上に結びつくということです。つまり、「排他性」がないこと、そしてそれと関連して「最終価値」を表しているのではないことです。

 ここまでの議論で、既にお気づきの方もあると思います。QCDはMECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive ダブリなく、漏れなく)ではないのです。特に前者の網羅性は問題です。評価やテーマの発想の視点から外れてしまう価値があってはいけません。また「最終価値」を表していないという面もあります。「そもそも」企業は、どういう点に価値を認識するかを考える場合、この点は重要です。

 その点、CUPOSモデルは、以下2つの利点があります。

■CUPOSは最終価値を表す

 生産財の顧客は、最終的に何に対して喜ぶのでしょうか?まず大きくは、自社の利益が増えることが最も大事です。なぜなら、利益を創出することが企業の最大の存在価値であるからです。しかしそのレベルでは、まだ価値を議論するには大きすぎます。従って、更に利益はどうしたら増大させるかを考える必要があります。それは3つの方向があります。一つはコスト(Cost)を下げること。そしてその他に、自社の製品がたくさん売れること(Unit)。そして、自社の製品の販売単価(Price)を上げることです。

 生産財の顧客は、利益だけに価値を見出していて良いのでしょうか?そうではないでしょう。社員や組織のことを考えなければなりません。労働環境、健康安全、そして自己実現や自己の能力向上を通じての精神的な充足、そしてそれらを通しての組織力の強化といったことです(Organization)。そのような配慮は、社内だけのものではありません。社外に対しても企業は責任を持ちます。周辺環境や地球環境等、社会(Society)への配慮や貢献が求められます。

 このように、CUPOSモデルは、生産財の顧客(企業や機関)が認識する最終価値を表しています。

■CUPOSはMECE(網羅的・相互排他的)

 またCUPOSモデルはMECEです。金銭面で顧客が価値を最終的に認識するのは、Cost、Unit、Priceと考えて良いでしょう。財務面で言うと、バランスシート上での財務体質を向上させたいという顧客ニーズがありますが、それらもコストやリスクの回避という意味でCostに含んで考えます。

 非金銭面では、ステークホルダーの議論から言うと、他のステークホルダーも存在しますが(例えば行政)、それはSocietyを社外と定義することで、このモデルの中で網羅することができます。

 そして、CUPOSの要素は、上のように全て相互排他的になっています。