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日本の製造業復活の処方箋「ステージゲート法」

第17回:ゲートの運営(その10):事業評価(5)
「革新的アイデアには市場ニーズ評価は不適切?」

(2012年11月19日)

 

セミナー情報

 

前回は事業評価の評価基準として市場ニーズの話をしました。偶然11月17日(土)に日本経営工学学会の日本型MOT勉強会でステージゲート法の話をする機会をいただき、その中で「革新的アイデアには市場ニーズや提供価値評価は不適切である」という意見が出され、喧々諤々の大変興味深い議論ができたので、この点について私の考えをお話したいと思います。

■「革新的アイデアには市場ニーズや提供価値評価は不適切である」の意味
具体的に言うと、そもそも革新的なアイデアは、「本質的に」現状では市場があるかどうかがわからないものであり、市場のニーズや提供価値を特定すること自体が革新的なアイデアを創出するという目的と矛盾する、また、研究開発テーマの場合、事業化までは何十年も掛かり、初期のテーマ選定の段階では、市場ニーズ・提供価値の想定は難しい、という意見です。例えば、炭素繊維は最初から航空機の機体や翼に利用されることを想定して開発されたものではない。その証拠に、最初は釣竿やテニスのラケットにしか使われなかったという議論です。

■革新的アイデアは、市場ニーズは想定できないか?
確かに、数十年先の市場ニーズを特定することは困難ではあります。特に生産財の市場は、新しい消費財の市場が生まれ、その為にその生産財の市場が生まれる訳ですので、その市場自体の影も形も無いということがあります。

しかし、炭素繊維の場合で言えば、既存の素材より遥かに軽量で強度があり、腐食にも強いという機能を持つことが期待されるのであれば、既存の素材を代替する市場があるということは容易に想像ができますし、東レ等の企業はそれを当然目的としていたと思います。また40年(?)前でも、旅客機、高速列車、ロケットや大陸間弾道弾、高速道路を走行する自動車は既に存在していた訳で、想像力をたくましくすれば、市場ニーズはもとより、大まかな市場規模も算定することも可能であったと思います(具体的な数値の正確性より、大きな市場か小さな市場かを数値として感覚的に捉えること)。

但し、炭素繊維は、市場ニーズが想定しやすい例かもしれません。例えば、クレハは活性炭を自社のコア技術として、活性炭を様々な用途に展開するという戦略をとっています。現在では、医薬やリチウムイオン電池の負極材としても活性炭技術を使って事業展開を行っていますが、活性炭をコア技術と決めた時に、リチウムイオン電池の負極材という用途を想定していたかというとその点は疑問です。しかし、炭素という単一素材から作られますが、活性炭は体積あたり膨大な表面積を持つという特徴を持ち、様々な機能をもつ大量の素材を吸着したり、放出したりする優れた機能を持ちます(私はこの分野の素人なので違っているかもしれませんが)。そうであれば様々な化学反応において有用であるという点は想定できます。

■結論:初期の段階では「市場ニーズ・提供価値」は「市場における有用性」
実際には、活性炭の例のように、研究開発当初では具体的な市場ニーズを想定することは困難である場合もあります。従って、初期の段階では、その技術や製品が生み出す「市場」における「有用性」を評価の対象とするのが良いでしょう。その場合有用性の表現のレベルも具体的なものから、かなり抽象的なものまでかなりの幅があると思います。例えば、炭素繊維の場合であれば、軽量高強度が一つの有用性ですが、対象分野を重量当りの強度が○○以上の素材の代替とある程度は具体的になります。一方で、活性炭の場合は、上であげた機能以上での有用性の表現は難しいかもしれません。

■問題なのは市場ニーズ・提供価値探索の思考・活動停止
以上のように、評価の項目もその段階で、市場ニーズ・提供価値に関する具体的な評価内容も変えていくことが重要です。

重要なことは、「革新的なアイデアは、「本質的に」現状では市場があるかどうかがわからないもの」と決め付け、そこで思考停止もしくは活動停止をすることです。どのような段階のアイデアでも、対応する市場ニーズで出来る限り具体的に想像し、提供する価値を明らかにしようとする部分に、思考、エネルギー、活動を投入することが極めて重要であるということです。それをしないことは『大きな』誤りです。従って、初期であってもやはり評価項目には入れるべきなのです。